ギィ…と錆び付いた音を鈍くたてながら屋上へ繋がる扉を開けば、夕日に染まる壊滅した東京の町並みが広がっていた。
戦闘時に太股や左腕を覆う装甲を外した、身軽な服装で屋上までやって来たアインはゆっくりと時間をかけて屋上の端まで歩き、紫の手袋に包まれた手をそっとアインの胸ほどの高さまである塀に置いた。

赤いフロワロが咲き誇る東京の街が、沈んでいく燃えるような太陽によって赤く紅く染まる様は何とも言えぬ美しさがあり、アインは暫しの間ぽうと見とれる。
「…綺麗だ…」
「そうだな。」
ぽつりと呟いた言葉は返答を求めたものでは無かったので、後方から返ってきた聞き慣れた声にアインは驚いたように振り替える。
「ギスタ。」
扉付近に立っていた声の持ち主は自身の想像していた通り幼馴染みの姿で、裾の長い独特のパーカーを纏ったギスタはその長い足で悠々とアインの傍らに歩み寄った。
「クエストから戻ったらお前が居ねぇって餓鬼共がキャンキャン騒いでたからよ、此処に居んだろと思ってなァ。」
ニヤリと口角をあげて笑うギスタにアインは苦笑すると、ギスタへ向けていた顔を再び赤く染まる街へと向けた。つられるようにギスタも視線を街へと向ける。
夕日はもう半分ほどが見えなくなってしまいつつあるが、その赤い光は衰えるどころかより強く街を染め上げる。
赤い花と、赤い空と、赤い街並み。世界のすべてが赤く燃えているようだった。
「…なあ、ギスタ。」
「…ん?」
己の名をつむぐ愛しい声に、ギスタは普段の彼からは考えられないような甘く優しい声で答える。
「絶対…絶対に、守ろうな。この世界を…皆を。」
赤い街を見つめながら言うアインの瞳は、強い意思を持って夕日に輝いていた。宝石のような紫色の瞳が、赤に照らされて美しく煌めく。
美しいそれを見ながら、ギスタは目を細めた。
目の前のうつくしい青年は、その細い腕で刀を振るい、凶悪なドラゴンに立ち向かっていく。
まっすぐに伸びた背に人類の命運を背負い、重すぎるそれに嘆くこともなく。ただただ前を目指し進んでいく。

世界を救うために。仲間を守るために。

彼はきっと、そのためなら自身の命ですら投げ出してしまうのだろう。
自分を、おいて。

「…ギスタ?」
「…ああ。」

黙りこんでしまったギスタへ不思議そうにかけられた声に、ギスタは フ、と笑いながら答えた。

赤い花と、赤い空と、赤い街並み。そして、赤に照らされる愛しい人と、自分。
アインの白銀の髪も真っ黒な学ランもアメジスト色の瞳も赤に照らされて、ひどくうつくしい。
二人きりのこの空間は、今、全てが赤くうつくしかった。

「…あーあ、」

世界は、今、終わってくれないだろうか。





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アインと二人で幸せに死にたいとか、考えてしまうギスタさん。




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