その気持ちのおすそわけ


席替えをしたらさすがに宮侑とは離れてしまった。私が前から二番目で窓側から三番目の席、宮侑が一番窓側の後ろから二番目の席だ。まあ四連続という奇跡はもちろん起こらなかった。
席を移動する時に宮侑に、俺がおらんくても元気でな、と謎目線で言われて少し笑った。そして私はそれを見て思った。

うん、こいつは私に恋愛感情を抱いてなさそうや、と。


しかし、そう思ってからはや三日。私にはある問題が生じていた。

「……」

「…… (やっぱ見られてる…) 」

宮侑、めっちゃこっち見てる問題。

いや、ほんとに、自惚れじゃないぐらい私のことを見てくるのだ。視線が痛いとはこのことか。
例えば、私がプリントを配るために後ろを向くとする。その時に宮侑の方を見ると十中八九目が合うのだ。そしてそのまま目をそらされる。意味深なやつぅ。
あと友達にも、宮君がずっと名前のこと見てたけどなんかしたん?と言われた。周りにバレるぐらい見てくるってどんだけ。そしてなにもしてない。

いや、でもこれってもしかして、宮治が言ってたことはほんま説ない? 宮侑ほんまに私の事好きなんちゃう? なにそれやばい。
友達にも、宮君って名前の事好きなんちゃうの?って言われたし。すごいことになってきた。宮治の言ってたことが現実味を帯びてきた。あの校内のヒーロー宮侑が私のことを好きとは。いやこれ何故に?

待て待て待て、はやまるな。勘違いやったら恥ずかしいやつやぞこれ。一旦落ち着こう。
宮侑が私のことを見てくるのは今まで近くにおったやつが遠くなって寂しくなっただけの可能性もある。っていやそれ恋始まるやつ! 自覚してしまうやつ! あかんあかん。

でもまあ確かに、私も少し寂しい気持ちはある。今まで毎日毎日隣にいた奴が急に遠くなってしまった。前ほど頻繁に話すこともないし関わることも少ない。仕方ないこととはいえやっぱり寂しく感じる。ってやっぱ恋の始まりか? これ自覚しはじめてまうやつか? え、私宮侑のこと好きなんか? シンプルに混乱。




部活に行く途中侑に会った。周りに人がいるからか顔は笑っている。通り過ぎる知り合いに笑顔で受け答えをしていた。
けれども目は死んでいる。こいつのこんな顔を見るのは今日で三日目や。いつまで引きずってんねんほんまに。

「もう俺はあかんわ……」

部室に入った瞬間、侑は死にそうな声でそう言った。この台詞を聞くのも今日で三日目である。俺は無視して着替えをはじめた。

「ほんま無理…まじ無理……」

「……」

「後ろ姿しか見られへんねん」

「……」

「全然話されへんくなったしまじ辛すぎ……」

「うるさいなお前」

無視し続けようと思ったけど無理だった。独り言があまりにもうるさすぎる。

「なあどうしよ! どうしたらええと思う?」

「あ? なにがや」

「聞いてへんかったんか俺の話!」

うるさいとは思ってたけど適当に流しすぎて肝心の内容までは聞いていなかった。どうせ同じような話の繰り返しやしな。聞いたら疲れるからしゃあない。

「名字と全然話されへんねん」

「ああ、」

割とどうでも良い話だ。でもこいつにとっては文字通り死活問題なんだろう。このままのテンションで部活に臨まれても困るので、優しい優しい俺はアドバイスをしてやることにした。

「話しかけに行ったらええやん」

「無理や恥ずかしい」

即答されて殺意がわく。人のアドバイスは黙って受け取れや。

「でも、ほかの男と喋られるよりはええやろ」

「た、たしかに」

「恥ずかしがってる場合か、堂々といけ」

「サム……!!」

俺のありがたい意見に対して、目を輝かせて聞く侑。そうや、それでええんや。さっさとアピールしてさっさと成就するなり玉砕するなりしてさっさとその気持ち悪いことばっか言ってんのをどうにかせい。




「私、侑君のこと好きやねん」

とんでもない現場に居合わせてしまった。

今は放課後。掃除当番だった私は、班全体で行われたごみ捨てジャンケンに負けてしまい、ゴミを捨てに裏庭まで来ていた。ジャンケン負けるしゴミ重たいし最悪、さっさと捨てて帰ろ、とか思ってたらこれである。とんだ不運だ。
裏庭に入った瞬間見慣れたやつの後ろ姿と見たことない女子が向かい合っているのが見えた。咄嗟に隠れた私の判断力を褒めて欲しい。そして聞こえてきたのがさっきの告白である。

そろり、と覗いてみれば顔を真っ赤にしている女子が見える。宮侑は私に背を向けているので、どういう顔をしているかは分からなかった。なんでも良いんやけどはやくどいてくれへんかな。ゴミ捨てたい。さすがにこの場面に乗り込んで堂々とゴミを捨てる勇気はない。

「ごめん、俺、好きなやつおんねん」

宮侑の言葉が聞こえて思わず固まってしまった。その声はいつも話す時とは違いとても冷たく感じる。あいつこんな声出せたんや。

「だ、誰か聞いても良い?」

そう答える女子の声は震えていた。可哀想に、フラれたもんなあ。他人事でごめん。

「言われへん」

宮侑の声は普段の調子に戻っていた。

「本人多分、気づいてへんもん」

「そっか……」

いや、宮治が嘘ついてなくてその好きな人がもし私なんやったら、もう本人気づいてるで。
やっぱこれ宮侑私の事好きなんか? 自惚れても良いん? ここまできて実は私じゃないですとかやったらめちゃくちゃ恥ずかしいな。

でも、宮侑がこうやって告白されて彼女できるかもって思ったら嫌な気持ちになった。あれ、自覚してしまった?


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