どこかに愛がかくれてる


「今日誕生日なん?」

「そうやで」

今日は私の誕生日。朝学校に行ったら友達がプレゼントをくれたり祝ってくれたりした。それを見ていた宮侑が、友達がいなくなったあとに声をかけてきたのだ。

「とりあえずおめでとう?」

「ありがとう」

「てか全然知らんかった。言ってやあ」

「今日やで」

「今言われてもやん! プレゼントなんもないわ...」

「いや、別にいいねんけど」

焦った様子で鞄を漁る宮侑を見てなんだか笑いそうになった。焦っているのが面白いぐらいわかるからだ。漫画かこいつは。
鞄を一通り見たらしい宮侑は、そのまま自分のポケットに手を突っ込む。かと思うとポケットからグーにした手を出して、そのまま私に突き出した。

「……とりあえず、飴ちゃんあったからあげる」

「わーいありがとう!…って溶けてベタベタやんけ!」

「え? まじで?」

宮侑が私にくれたのはパインの形をした有名な飴だった。受け取って食べようと包みを開けたら、ねばっと飴が伸びた。綺麗に溶けていらっしゃる。まあ最近暑かったしなあ…。

「最悪や…またちゃんとしたもんあげるわ…」

「めっちゃ気い使ってくれるやん」

しゅんとした顔で宮侑はそう言った。別にそんな気を使わないでくれていいねんけど。こいついいやつかよ。
そう思いながら私は飴を口の中に入れた。ネバネバしてるけど味は変わらなかった。



「てなわけで、ミスって飴あげてもうたんやけど、ベタベタやのに舐めてくれる名字天使すぎへん?」

今日もこいつは絶好調で気持ち悪い。

「てかお前、誕生日プレゼントに飴とか……」

ないわあ、と俺は続けた。
いや好きな人の誕生日に飴一個ってそんなことある? さすがにもうちょっと何が用意するやろ。飴って。しかもベタベタなやつあげるって。ほんまに好きなんか。嫌がらせやろ。

「いやほんまミスってん!まじやらかした!」

最悪やあぁぁぁと頭を抱える侑を俺は冷ややかな目で見つめる。何やら変な声で唸ったあと、侑はパッとこっちを見た。その目は救いを求めているように見えた。

「なあ、女子ってなにあげたら喜んでくれるん?」

「知らん」

「わからへん! 何あげたらええんか全然わからへん!」

どうしよー!と侑は叫んだ。毎回毎回毎回思うけどこいつほんまに声でかい。この喋ってる内容、いつか名字さんに聞かれろ。

「プレゼントは俺、とかあかんかな?」

「ええわけないやろ」



「これあげるわ」

朝、学校に着いたら宮侑が私の席にいた。私の顔を見て笑顔で手を振るのを見て大型犬みたいだなとなんとなく思った。

「なんこれ?」

「開けてみい」

そんな宮侑からシンプルなラッピングをされた袋をもらう。中になにか入っているみたいだ。
開けるように促されたので、できるだけ破れないように丁寧に開けていく。中に入っていたのは可愛らしいシャープペンシルだった。

「シャーペン?」

「昨日店でパッと目に入ってん」

可愛いやろ、と宮侑は続けた。いやたしかに可愛いけど。まさかこれ昨日言ってた誕生日プレゼント?

「わざわざええのに」

「だってプレゼントがあんな飴だけとか、嫌やろ」

「律儀やなあ」

シャーペンを手に持ってみる。派手すぎない可愛さで、とても自分好みなデザインだ。書きやすそうやし。

「ありがとう、大事に使うわ」

わざわざ私のために選んでくれたのかと思うと素直に嬉しかった。大切にしよう。



「渡せた...!」

「おー」

部室に入ってくるなりガッツポーズを決めた侑になにがあったかを聞けば、どうやら例の名字さんにプレゼントを渡せたらしい。昨日部活終わりに買い物行くとか言ってたけどプレゼント買ってたんかい。
でもまあ、シャーペンはこいつにしてはマシなプレゼントちゃうか。少なくとも昨日言ってたプレゼントは俺、と比べたら数千倍マシや。

「俺のあげたシャーペンがあいつの筆箱に入ってて使ってくれてる…これもう付き合ってるやろ…」

「お前きっしょ」

だがしかしこいつの気持ち悪さは相変わらずだ。付き合ってる、ってどういう理論やねん。

「大事に使うわ、ってやばない? もはや俺が大事にされてる...」

「きっっっっしょ」

いい加減キレてもええやろか。


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