ふたつの縁は重ならない


朝学校に言ったらいつも通り宮侑が席にいて。「宮、おはよう」と言ったら「もうミヤちゃんちゃうねんな」と笑いながら返ってきた。
宮侑は笑っていたけど何か悲しそうに見えた。だから私はミヤちゃん呼びを継続することにした。

「まさか呼んで欲しかった? 呼んであげるやん、ミヤちゃん」

「うわあ、ドヤ顔うざあ」

「うざい言うなや!」

こうなったら絶対流行らせたるからな、ミヤちゃん呼び。


午前授業が終わり、昼ごはんを食べ、午後一発目は移動教室。
私が選択した科目は、仲が良い友達たちとは違う科目なので移動は一人だ。いつも悲しい。ちなみに宮侑も違う科目だ。
友達たちが授業の関係で早く移動しないといけないらしいので、私も早めに昼ごはんを食べて教室を出た。といっても、移動先の教室はまだ空いてないだろうし、どっかで時間潰されへんかな。

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、前から、あ、という声が聞こえてきた。顔を上げると、見知った顔……に超良く似た顔。

「あ、双子の…宮治クン?」

「もしかして名字さん?」

もしかしなくても名字さんです。

はじめまして、こちらこそはじめまして、と軽く頭をさげる。いやなにこのノリ? どういうテンション?
それにしてもこの人が双子の宮治かあ。遠目で見たことはあるけど、実際近くで見るのは初めてだ。顔たしかに似てるな。さすが双子。雰囲気は少し違う感じするけども。

てかなんで宮治は私のこと知ってんだ。宮ツインズが校内のスターだとしたら私なんで通行人Fぐらいの立ち位置だ。え…もしかして知らぬ間に有名人に……? そんなわけはない。

「あ! お前なにしてんねん!」

後からでかい声が聞こえた。振り返ると宮侑がダッシュでこっちに向かっている。廊下は走るな。
宮侑は私たちのところまで来たかと思ったら、宮治の肩をひっつかんで後ろに押した。まって荒くね?

「走ってきていきなりなんしてん? 喧嘩?」

「ツムどしたん」

「いやいやいや、なんでお前らが話してんねん!」

肩で息をしながら宮侑が突っ込む。別に話しててもいいやん、なあ? なんや通行人Fは話したらあかんのか。
てか、宮治の肩めちゃくちゃ痛そうなんやけど。めり込んでないそれ。なんやほんまに喧嘩か? 兄弟喧嘩なら別のとこでしてくれや。

「なんでって、たまたま会ったからやん?」

「ほんまにたまたまか、サム?」

「せやで。てか肩痛いねん離せや」

「そうやでミヤちゃん。肩いたそうやから離したりぃや」

どさくさに紛れてミヤちゃんと呼んでみる。割としっくりくるなこれ。

「名字お前、こいつの肩もつんか…!」

「いや、リアルに肩持ってるのはミヤちゃんやん」

「そういうことちゃうねん!」

「たしかに」

宮治が少し笑った。笑った顔もやっぱ宮侑に似てるな。でも宮侑よりちょっと可愛い感じ。宮侑は少しふてくされた顔をして、宮治から手を離した。仲良く行こう、仲良く。

「てか名字さん」

「ん?」

「今思ってんけど、ミヤちゃんなら俺もやん?」

「あ、ほんまや」

そう言えば、当たり前だが宮治もミヤちゃんになる。ミヤちゃんが二人……? いや元々二人か。でも双子なだけで同じミヤちゃんが二人いる訳では無い……?つまりミヤちゃんは一人。だけど二人ともミヤちゃん。…ん?混乱してきた。
ややこしいからやっぱりこの呼び方変えた方がいいか?

「余計なこと言わんでいいねん」

「えー、でもツム、」

「ええからさっさとどっか行けや」

シッシッと宮侑が手を払う動作をする。はいはい、と宮治は苦笑しながらその場を去る。なんや、宮治の方が大人やんけ。対応とかが。
後ろ手に手を振りながら歩いていく宮治を見送ってから、宮侑の方を向いた。

「いやー初めて喋ったわ。似てるなあ」

「もう喋らんでええで」

「なんで?」

「……いや、なんでとかないけど」

そっぽを向いてそう言う宮侑。何故か少し不機嫌な顔をしている。

え? なんでそんなに嫌がるんや。よく喧嘩をしているとは噂で聞くが、仲が悪いわけではないというのも聞いた。本人にその話をした時も、まあアイツは俺の分身やからなあ、と笑って言っていた。から仲は良いはずだ。

「……あれやん、」

「ん?」

「名字は俺の友達やから、治と仲良くしてるのはなんか嫌やん?」

「そーなん?」

てっきり宮侑は、友達の友達はみんな友達! 俺の友達同士も友達になるんや! 的なイメージがあった。いやこれは極端すぎるか。私の中での宮侑のイメージとは。

「飼ってる犬がほかの人にも懐いてるの見るとちょっと悲しくなるやん? そんな感じ」

「なるほど、…って誰が犬やねん!」

「例えやんかあ」

宮侑はヘラっと笑ってそう言った。どうやらもう不機嫌ではなさそうだ。
なるほど、私には兄弟がいないからわからんけど、自分の友達は俺のもん!って感じのやつか。多分こんな感じか。知らんけど。

そんなことを考えていたら、昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。つまり授業まではあと五分。

「あ、もう行かな」

「俺もやわ」

「バイバイミヤちゃん」

「また後でな〜」

宮侑に手を振って私は授業のある教室へと向かった。宮治も面白そうやし、仲良くなれたらいいけどなあ。




「サムお前どういうつもりやねん!」

予想はしていたが、部活に行く途中に侑に見つかり案の定吠えられた。

「たまたま会っただけやんか」

「にしては親しげに話してたやんけ」

「名字さんが気さくな人やったからな」

「んなこと知ってるわ」

昼休みの出来事を思い出す。しかし、あれやな。

「お前、好きなんバレたくないって言ってたのにあんな焦っていいんか」

「ほんまそれ……」

「わかりやすすぎたやろ」

「バレたらどうしよう……死ぬしかないほんま……」

そう言って侑は頭を抱えた。
名字さんが鈍感なのかは分からんけど、侑の気持ちには気づいてなさそうやった。てか好きなんバレるのは別にいいやろ。お前の場合裏で変な事言ってるの知られる方が命取りやろ。

「そう言えば今日、名字にお前は俺の飼い犬やって言ってもうた」

「どういう流れでそんなこと言うねん」

「完全にやらかしたわ」

裏でだけじゃなくて表でも言ってた。いやそれはギリギリアウトやろ。飼い犬ってなんやねん。どんな話してたらそんなこと言うねん。

「でもほんまに飼い犬なってくれへんかな…ぜっっっったい可愛いやん〜〜〜! 飼う〜!」

「病院行ったほうがええで」

頭の、とつけたした。こいつの情緒不安定どうにかならんか。

今日、廊下で女子と目が合い名前を呼ばれた。相手の名札を見れば名字と書いていて。そしたら相手は俺のことを知っていて、偶然にも話すことが出来たのだ。
侑があまりにも言うから一回見てみたかってんけど、なんていうか

「思ったより可愛かったな、名字さん」

話しやすいし普通に面白かった。あれはまあ、仲良くなったら惚れてまうのも少しはわかる気がする。でも

「お前手出したらぶっ殺すで」

「そこまで言うてへんやん…」

こいつは異常すぎるけどな。


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