蕾にさえなれないままで


宮侑はうちの高校では有名人だ。まず日本屈指のバレー部のセッターである。弟の宮治もバレーが上手なため宮ツインズなんて呼ばれている。顔も良いし性格も明るく人懐っこくて、学校内外問わずファンも多い。宮侑はそんな感じの人間だ。

「あ、ミヤちゃんやん」

「…誰がミヤちゃんやねん!」

女か! とノリのいいツッコミが返ってきた。さすが。

高二の四月になり、クラス替えがあった。掲示板にはられてるクラス分けの紙を見て、友達を探していると見たことのある有名な名前があった。それが宮侑だった。
私はバレーをあまり知らないけど名前は聞いたことがあるし顔も遠目に見たことがある。有名な人と同じクラスになったもんだなあと思っていた。

そしてクラス替えから一ヶ月。宮侑とは席も遠く接点もないので、喋ることは無かった。が、初めての席替えでなんと隣同士になったのだ。

「名字さんやっけ? よろしく」

「あ、うん、よろしく」

ニコッと笑って声をかけられた。席替えで近い人に挨拶するなんて、良い奴かこいつは。私の中で宮侑の好感度が少し上がった。

そこから、冒頭のようにミヤちゃん、などと気安く呼ぶようになるまでにはもう少し時間がかかった。
時間がかかったというか、理由は簡単だ。

毎月席替えが行われるのだが、三連続隣の席になったのだ。

いや、もはや運命か? 二回目の時には「また名字やん、運命感じるわァ」とか言っていた宮侑も、三回目の時は「え、またかよこっわ」と笑っていた。いや本当に怖いわ。
そんなわけで三ヶ月も隣にいたら、宮侑の性格もあり軽口を叩くぐらいの仲になったのだ。

「ミヤちゃん部活? がんばがんば」

「いやそのミヤちゃんってなんやねん」

話を今に戻して。今は放課後で私は帰る最中に廊下で、部活のでかい鞄を持っている宮侑に遭遇した。ちなみにミヤちゃんって言うのは今初めて言った。思ったより違和感無いな。

「今降りてきたねん。女の子みたいで可愛くない?」

「生まれて初めて呼ばれたわ」

「これ流行らせようや」

「嫌やわそんなん」

馬鹿にされるやんけ、と宮侑は続けた。言葉の割に顔は楽しそうだ。

「てか名字今帰るとこなん?」

「せやで」

「え〜ついてこっかな」

「部活いけや」

こうやって冗談を言う宮侑が好きだ。いや恋愛感情とかじゃなくて。普通に面白いのと子供っぽいから好き。

「まあ行くわ。帰り気をつけえや」

手を振って宮侑は歩いていってしまった。やっぱええ奴よなあ、あいつ。



「はァァァァ〜〜〜〜!!!」

「うるさいねん、なんやねん」

更衣室に入ってくるなり、侑は顔を抑えながらそう叫びしゃがみこんでしまった。なんやねん、とは言ったものの、侑がこうなっている理由には大体察しがつく。

「サム聞いてや…」

「嫌やわ」

「名字にミヤちゃんって呼ばれた……!!」

「嫌って言ったやんけ」

人の話聞かれへんのかこいつは。

でた、名字さん。俺は名字名前という人物を直接見たことはないが、その名前はよく聞く。一日五回は聞く。どうも侑が好きな人らしい。
いや好きなんは別にいいんやけど

「なんなんミヤちゃんって…可愛すぎやん?可愛すぎてぶち切れそうになった」

「意味わからんねんけど」

「ほんま可愛い……一生そうやって呼んでくれ……」

「それやったら俺もミヤちゃんになるやんけ」

「は?無理やわ、名字変えろサム」

「真顔で言うのやめろや」

こいつの惚れ方が怖すぎるのだ。
侑は名字さんのことを好きすぎて神格化してるところがある。話せたから嬉しい、笑ってくれたから嬉しい、髪型が変わったら可愛い、授業中当てられて分からなそうな顔してたのが可愛い、などなど謎の報告を聞く毎日や。なんやねんこいつ、ほんま怖すぎるやろ。なんで俺があったこともない人について詳しくならなあかんねん。

どうも侑と名字さんは、席替えで三連続隣の席になっているらしい。侑が裏でなんかしてるんかと思ったけど、それは本当に偶然らしい。

なんで好きなったん?って、侑が名字さんのことを話し出した時に聞いたみたら、性格があっさりしてるところと顔、と言っていた。よくわからん。よくわからんけど、それが好きならええんとちゃう?ぐらいに俺は思っていた。まあ、アタックとか色々頑張れや、侑に先彼女できるのは嫌やけどな、と。

けど段々とそんなことを言っている状態ではなくなっていた。いつのまにか侑は手遅れになっていた。

本人の前ではクールに(ほんまか?)振舞っているらしいが、俺やバレー部員の前ではこうである。可愛い、可愛い、と言いまくり謎のポイントでテンションが上がっている。いつかこの姿が本人にバレてしまえと思う。

「はぁあああ可愛かったわあ…ほんまについて行きたかった……」

「ついて行くってなんやねん。てか名字さんのことはええから、はよ着替えて用意しろや」

「俺今日はスーパー侑くんやからな、めっちゃバレー上手いで」

「なにアホなこと言ってんねん」

いくらなんでも手遅れすぎるやろ。
そこまで言う人なら一度顔を見てみたいが、侑はそれを絶対に許さない。本当に絶対にそれを許さない。どんなけガード硬いねん。

「お前それでよく本人にばれへんな」

「こんなんバレたら恥ずかしいやん…」

「俺の前で言うのは恥ずかしくないんかい」

「この溢れる気持ち、誰かに言わな死ぬねん」

「本人に言えや」

話聞いてる限りさすがに脈ナシじゃなさそうやし、もう告白したらええのに。多分本人に伝わってへんやん。てか隠し通そうとしてるやん。伝わったらなんとでもなると思うねんけどなあ。難儀な奴や。


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