追われたあとのはなし


放課後。なんと家に帰っている途中で忘れ物に気づき、慌てて学校に引き返して来た。誰もいない教室で無事忘れ物を回収して、さあ帰るかと廊下に出たその時。

「お、」

最近二連続で隣の席になり仲良くなり始めた男、宮侑がいた。バレー部のジャージを着て、見たことのない人たちとこっちへ向かって歩いてくる。全員バレー部のジャージを着てるし、バレー部の集団やろか。

なんて思っていたら目があった。

無視するのもあれなので軽く手を振る。そしたら宮侑も笑って手を振り返してくれた。笑顔が眩しいなおい。

「知り合い?」

「クラスの奴ですわ」

敬語で話しているってことはあの人たちは先輩なんかな。全員の顔を見たが有名な双子の片割れはいなさそうだった。宮ツインズ、見たかったのに残念。

「おつかれー」

なんの用事で歩いてるかはわからないけど、部活の時間中に邪魔するのも良くないなと思いすれ違い様に軽くそう言って去ろうとした。

「なあ!」

「ん?」

そう思ったのに、後ろから声をかけられた。振り向けば何故か宮侑が真後ろにいる。

「どないしたん?」

「あーいや、今日の数学の宿題ってなんやったっけ?」

「数学?」

そういえば宿題とか出てた気がする。私は鞄から数学のノートを出して、宿題についてメモをしているページを宮侑に見せた。

「ここやねんて」

「あんがと」

「授業聞いてなかったん?」

「ちょうどその時眠気と戦っててん」

ファイティグポーズをとる宮侑を見て思わず笑ってしまった。

「勝てた?」

「完敗やったわあ」

「数学ってどうしても眠なるもんな」

宮侑の背中越しにバレー部の人たちと目が合って、はっとした。そうや、宮侑が話しやすいばっかりについつい雑談モードに入ってたけど、今は部活中だった。あの人たちはおそらく先輩だろうし、これ以上待たせるのは良くない。

「じゃあ私帰るわな」

「おん」

「部活がんばって」

「ありがと〜!」

満面の笑みで手を振る宮侑はしっぽを振る大型犬に見えた。人懐っこさがカンストしてる。
宮侑がモテるのってバレーが上手いだけじゃなくて、絶対この性格も関係してるよなあ。

宮侑に背中を向けたあと、後ろから「あの子か…」という声が聞こえた気がした。



「今なら分かるけど、あれって部活で私の話してたってことやんな?」

「え!」

昼休み、晴れて私の彼氏になった宮侑は目の前で心底驚いた顔をしている。

「よう覚えてんなあ…」

あの時、記憶が正しければまだ宮侑と知り合って二ヶ月ぐらいしか経っていなかったはずだ。
いくら親しいとはいえ、同じクラスの女子の話をわざわざ先輩にする? いや、しないと思う。だからこそ、どんな話をしていたのか気になるのだ。

「あの時の人ら部活の先輩やろ? 私のこと知ってるのんって侑が私の話してたからやろ?」

「…そうやけど」

じっと目を見つめてそう聞けば、侑は気まずそうに私から目をそらした。そんな姿を見てピンとくる。こいつ、…なんか変な話してたな。

「どんな話してたん」

「えぇ、恥ずかしいわあ」

「わざとらしいで」

わざとらしく頬に手を当ててそう誤魔化すものだからますます気になった。

付き合う前に宮治と話した時のことを思い出す。宮侑が私のことを気持ち悪いぐらいに好き、と言われた時のことを。もしかしてその気持ち悪いぐらいに、というのは部活で私について話していたことが関係しているんじゃないか。

「教えてや」

「絶対言わへん」

「なんでなん」

「言いたないもん」

「…」

「…」

無言でお互い見つめ合う。仕方ない、最後の切り札を切ろう。

「じゃあ宮治に聞くからええよ」

「それはあかん!!ほんまあかん!!!!」

「声でっか!」

なんでこんな必死なん?


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