「全国行くんやってな、おめでとう」 「おーありがと」 治は私の方を一切見ずにそう言った。 ここは私の部屋。今日の部活は休養日で休みらしく、放課後家行ってもいいかと急に声をかけられた。治から誘ってくるなんて珍しいこともあるもんやな。 私と治は付き合っている。元々は友達で、なんと治から告白された。私も好きやったけど、宮治は人気者やしまあ高嶺の花やなと思って諦めていたので、告白された時は本当に驚いた。と同時にめちゃくちゃ喜んだ。 付き合ってる、とはいえ治は部活が忙しく滅多に会えない。お互いラインもあまりしない性格やし、どこかに出かけることもほとんどない。なのでこうやって会おうと声をかけられるなんて、本当に珍しいことだった。 「試合見に行くわな」 「おん、来いや」 「おさむって書いたうちわ持ってこかな」 「それはやめろ」 私はベットの上で寝転びながら治に話しかけていて、治はベットを背もたれに座ってスマホゲームをしている。画面をちらりとみれば、治の指の動きに合わせてパズルが光って消えていた。え、なんかすごい上手いな治。めっちゃコンボしてるやん。プロやん。 かれこれ三十分ぐらいこの状態だった。せっかく会えたんだから甘えたいし話したいこともたくさんある。でも治はずっとゲームをしてるし、話すどころか私に触れる気配すらない。もはやいない存在として扱われてる気もする。 今日は休養日やし、大会も近いから多分ゆっくりしたいんだろう。少しさみしいけど休みの日に会いに来る選択肢に入っているだけ喜ぼうと思った。それに同じ空間でダラダラしてるこの感じもまあ嫌いではない。 私は治の方を見るのをやめて、寝転びながら自分の携帯を見る。SNSを開いたは良いけどさっきも見ていたので更新しても新しい投稿はなかった。ラインも来てない。通知も特になし。携帯見るのも飽きたなあ。 「…暇」 「え?」 「ん?」 治が私の方を向く。一瞬、なに?と思ったがどうやら声に出てたみたいだ。 「あーいや、別に」 暇やなぁって思ってん、と私は続ける。嘘ではない。そんな私に対して、治はふーんとだけ言ってまたゲームへと戻った。いや、それだけかい…。 だらだらしてるのは嫌いじゃないとは言ったけど、でも、ここまで構ってくれないとやっぱり寂しい。少し恨めしさをこめて、変わらず私に背を向けてゲームをする治の背中をじっと見つめた。しかし治は私に気づくことはない。悲しい。 「…」 治に近づくため寝転んでいた体を起こすことにした。それに合わせて少しだけベットが音を立てる。そのまま体育座りをして、治がしているゲーム画面をじっと見た。相変わらず気づく気配はゼロ。治の神がかった指の動きでどんどんパズルが消えていき、画面がチカチカと輝く。なんや、そんな楽しいんかそれ。私もしよかな。 「見られてるとやりづらいわ」 ゲームクリア! という文字が画面に浮かんだあと、治がこっちを向いた。じとっとした目で見てくる。あ、気づいてたんや。 「気にせんでええよ」 「いや、気になるやん」 そう言って治は携帯をカバンにしまった。こっちを見つめてくる目にはしっかりと私がうつっている。なんとなく、勝ったという気分になった。 ぎしり、とベットが音を立てる。治がベットに手をついたからだ。治がベットの縁に座ったのに合わせて、私も隣に並んで座った。治が来てくれたのが嬉しいくて頭を軽く治の肩に乗せる。 「おも」 「…甘えてるんやけど」 「随分えらそうに甘えてくるやんけ」 言葉とは裏腹に治の左手が私の頭を撫でた。嬉しい。無意識のうちにすり寄ってしまう。治の顔を見上げれば、なんや、と言われて目があった。 「俺、腹減ったわ」 「そーなん? なんか食べにいく?」 「せやなあ」 部屋の時計を見れば六時前で。少し早い気もするけど、夜ご飯の時間かもしれない。 残念、せっかく甘えれると思ったのに。治は何よりも食べることが大好きだから、すぐにご飯を食べに行こうとするだろう。私は少し名残惜しげに思いながらも治の肩から頭を離した。 「…なに?」 「いや、」 外に出る準備でもするか、と思いベットから降りようとする。そしたらベットについた手を上から治に握られた。不思議に思って見れば、予想してたよりも近くに治の顔があった。眠そうに開かれた目の中に、驚いた顔をした私が見える。 「どうしたん」 治は、答えることなく私の頬に手を伸ばす。スリ、と撫でられるように触られて少しだけ首がすくんだ。そのまま親指で唇の端をなぞられる。 なんとなく、治の気持ちを察した。 「ん、」 顔が近づいてきて、唇が触れ合う。カサついた感覚に一気に意識を奪われた。 二度、三度くっついたり離れたりを繰り返す。上から握ってくる治の手の力が少し強くなった。最後に一つ、長いキスをして治は私から顔を話す。その目の奥には熱がともっているように見えた。 「……ご飯は?」 「…あとでええわ」 せっかく会ってるんやし、と治は続ける。それを聞いて私はにやけてしまいそうになった。それを隠すように慌てて目を閉じる。 考えてることが一緒、そう思うだけで嬉しくて仕方なかった。 戻る |