おまけ


「付き合うことになった!!」

家に帰ってきて三十分ほど経った後、部屋の扉が開かれテンションがおかしい侑が転がり込んできた。満面の笑みとその言葉から名字さんと付き合ったことを察する。

「おーおめでと」

侑に先に彼女が出来るのは悔しい気持ちもあるが、今まで気持ち悪かったのが少しでもましになる方が嬉しい。もう二度と裏で気持ち悪いこと言うなよ。ちゃんと付き合ったんやから全部本人に言えよ。そう言う気持ちを込めて侑に親指をグッと立てる。が、

「てか、ゼクシィって男でも買えたっけ!?!?」

「気いはやすぎるやろ」

買わなあかんわ!! と急にうろたえる侑に心底ドン引く。何その発想。きっっもちわる。

「だって付き合ったなら次は結婚やん」

「はやいねん落ち着けや」

「落ち着けるか!? さっき名字を家まで送ってきてんけどもおおお可愛くてたまらん!!」

「うるさい」

床に横たわってそう叫ぶ侑に思わず耳を塞ぐ。てか顔を手でふさいで叫ぶな、女子か。勝手にやってきて言いたい放題言って床に転がって自由かお前は。

「名字もちょっとだけ頬赤かったし、それ見てあー付き合ってんねや俺らって実感してほんまに……やばかってん!!」

人の惚気を聞くのは元々得意ではない。興味ないし、どうでもいいし。それを踏まえたとしても、双子の片割れの惚気となるとここまでうざく感じるのか。興味ないとかどうでもいいとかそんなレベルじゃない、うるさい。

「まじで可愛い…俺の彼女ほんま可愛い…」

「はよ出て行けや」

これからこの惚気を聞かされる生活が始まるのかと思うと少しうんざりした。



クラスメイトである宮侑と付き合ってから一週間。私はバレーの大会を見にきている。告白して一緒に帰った日から私は宮侑に会っていなかった。つまり今日、宮侑の姿を見るのは一週間ぶりなのだ。会わなかった理由として宮侑が大会で忙しそうというのもあるけど、どこか気恥ずかしいというものもある。だって改めて考えると、宮侑が私の彼氏とか破壊力やばいからな。
ちなみにこないだの帰り道、宮侑はずっとニコニコしていて照れながらも嬉しいオーラが溢れていて、つられてこっちまで照れてしまった。イケメンの嬉しい顔はせこいやろ。あんなん誰でも照れるやろ。

「かっっっこよ…」

そして今。私は宮侑が出ている試合を見ていたんだけど、宮侑かっこよすぎ問題が生じてる。いやこれはエースだわ。なにあのプレー、宮侑が動けばすぐに点入るし。そりゃこんだけかっこよかったら、学校でファンもいるわ。宮侑がプレーをする姿はキラキラと輝いて見えて。素人目にもわかるぐらいに活躍していた。バレーのルールに詳しくない私でも、宮侑はとても上手いことがわかる。てかつよっ。うちの高校つよっ。試合はワンサイドゲームで、見てる間に圧勝した。

勝ちが決まった後、宮侑は笑顔でチームメイトとハイタッチをしていた。それを見て、近くにいた観客席の女の子が宮侑の名前を叫ぶ。おお、意外と近くにファンがいた。うん、わかるわその気持ち。叫びたい気持ち、すごくわかる。

『おつかれ! めっちゃすごいやん、かっこよかった!』

今すぐには見ないだろうけど、とりあえずこの興奮を伝えたくてすぐに宮侑にラインをした。本当にかっこよかった。まじでまじでかっこよかった。一人で来るんじゃなかったな、誰かとこの興奮を分かち合いたかった。今度来るときは友達を誘おう。

うちの高校の今日の試合はこれで終わりみたいなので、私は帰る用意をする。いやー、今日は良いものが見れたわ。そう思っていたら携帯から通知音が聞こえた。

『まじで!? ありがと』
『今からミーティングまで』
『ちょっとだけ時間あるねんけど』
『一瞬会えん?』

宮侑からだった。



「すごかったな!!!」

すぐに片付けを済ませて、会場の裏口に来た。小走りで急いで来たのだがそこにはすでに宮侑の姿があって。とりあえず第一声、そう声をかけたら宮侑は私に気づいたらしくおーと片手を上げて答えてくれる。

「来てくれて嬉しいわあ」

「こっちこそ誘ってくれてありがと! 今時間大丈夫なん?」

「ミーティングまであと10分やからまだいけるで」

ポケットから携帯を取り出して宮侑はそう言った。顔を見ればまだ汗の跡が残っていて。試合後はゆっくりしたいだろうに、少ない時間を使って会おうとしてくれるのがとても嬉しかった。

「圧勝やったやん、すごかった」

「まあこんなとこで負けてられへんし」

そう言って宮侑は自信満々に笑う。今日の圧勝は俺のおかげやわ! と続けて言った。確かに、宮侑は私から見ても分かりやすいくらい活躍していた。サーブも決めてたし得点に絡みまくっていた。てか宮侑のサーブの音えぐかったな。人殺せそう。

「ルールよくわからんけど、でもミヤちゃんが一番活躍してたわ!」

「…そりゃ、」

宮侑の肩をバシバシ叩きながらそう言えば、手首を軽く掴まれ制された。ああ、ごめん、と言って手を引こうとしたけど、手首は掴まれたままで。不思議に思って宮侑の顔を見上げれば、真っ直ぐに私の顔を見ていた。かと思えば目をそらされて、あー、と声を漏らす。

「そりゃ名字見に来てくれてるし…頑張らなやん…」

ええとこ見せたいし…と宮侑は続けた。言葉に合わせてきゅっと手首が握られる。え、待って。なにそれ、なにその行動、

「…かっわいい!!!」

「はあ!?」

「あかん! それはほんまに可愛すぎやろ!?」

「可愛いってなんやねん!? かっこいいって言えや!」

宮侑が吠えだすが私はそれどころじゃない。待ってキュンとした、これは負けた。可愛い。

結局そのあと、死んだ目をした宮治が宮侑を呼びにくるまで私たちの言い合いは続いた。


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