惚れられたから負けだよ


ターゲット発見。

放課後、私は図書室で時間を潰した後に正門で待ち伏せをしていた。門からはぞろぞろと部活生が出てきている。誰を待ち伏せしているのかって? 正解は宮侑です。
そして冒頭で言ったように私は今回のターゲットである宮侑を見かけた。双子の宮治も一緒で、靴箱で靴を履き替えて昇降口から出てきている。二人は仲良さげに話していて声をかけるのは憚られる気もするけど、女は度胸だ。今日中にこのもやもやを解決させる方法、それは直接話すこと。このまま夏休みを迎えるより今、全部の決着をつけるべきだと私は確信しているのだ。待ち伏せなんてストーカーっぽいけどこれっきりにするので許して。

「ミヤちゃん!」

自分の緊張をほぐすため、あえてそう呼んでみた。まあまあ大きな声を出したので周りの生徒の注目を浴びる。うわ、恥ずかし。
手を振ってそう呼べば、すぐに宮侑と目があった。かと思えば宮侑はビキっという効果音が聞こえそうなぐらい硬直する。宮治とも目があって、ああ…という顔をされた。なんやねんその顔。

「あ、」

かと思えば、その瞬間宮治が宮侑に思いっきり引っ張られて靴箱の方へと消えていった。なんやあの瞬発力。運動部の本気ここで出してくるんか。
二人は見えなくなってしまったが、門を通らないと学校から出れないのはわかってるので大人しく待つことにする。しばらくして宮侑が宮治に全力で引っ張られながら出てきた。私は二人の元へと向かうことにする。

「…どうも」

「どうも」

宮治と目があったのでぺこりと頭を下げた。宮治も律儀に頭を下げてくれる。いやなにこのやり取り? デジャヴ。ちなみに宮侑は私に背を向けていて、その顔は見えない。

「とりあえず名字さん、あとよろしくな」

「任せてや」

「あ! サムお前裏切るんか!!!!」

「うるさいな、俺おってもどうしようもないやろ」

「ばいばい〜」

門を出ようとする宮治を私は手を振って見送った。宮侑が叫んでいるが、私の方を見ると気まずそうに目をそらした。何か言いたそうに口をもごもごさせているのが見える。もしかしてこのまま強行突破で帰られるかもとも思ったが流石にそんなことはしないようだ。

「とりあえず端行く?」

「……おう」

昇降口の真ん中に突っ立っていても邪魔なので、二人して端っこによる。周りの生徒はまばらになっていた。門が閉まる前に話つけないとな。

「ど、どしたん、急に」

少しどもったように宮侑がそう言った。相変わらず目は合わないけど私はしっかり宮侑の目を見る。

「単刀直入に聞くけど、」

「…なんや」

「ミヤちゃんって私のこと好きやろ」

時が止まった。

ポカンというように宮侑の口が半開きになる。かと思えばじわじわと顔が赤くなっていった。つられて私の顔も熱くなっていくけど、ここは我慢だ。

「なっ、!」

「な?」

「なんっでやねん!!!」

「声でっか!」

思わず反射的に耳を塞いでしまう。宮侑の顔はすっかり真っ赤に染まってしまって、動揺が目に見えてわかる。ああ、わかりやすいなあ。もし宮侑が私のこと好きじゃないのなら恥ずかしいなんて思ったけど、杞憂だったみたいだ。

「あ! あれやわ、好きやけど飼い犬への愛情? 的なや、やつやん!」

「いやもうええから」

盛大な身振り手振りを交えてなんとか弁明しようとする宮侑を制する。てかなんでごまかそうとするねん。こんな顔を赤くして、慌てて、あまりにもわかりやすすぎて、隠し通せるわけないのに。普段の飄々とした姿はどこにもなくて思わず笑ってしまいそうになった。自分よりはるかに大きな体をしている目の前の男が、愛おしくて仕方がない。

「私は好きやで」

せっかく大会に誘ってくれたのだから、ちゃんと私も気持ちを伝えて、その上で宮侑のバレーを見に行きたいと思った。こんなにわかりやすく私のことを思ってくれてるみたいだし、誠意には誠意というやつだ。

「え、」

「もちろん、飼い犬とかじゃなくて男としてな」

宮侑の目が今までで一番見開かれる。嘘ちゃうで、と続けると一瞬固まったあと素早く腕が動いた。動いたっていうか腕が飛んできた。

「ま、まじで!!!!?」

「うわっ!」

宮侑のテンションが最高潮に達する。今までで一番大きな声を出して思いっきり私の肩を掴んできた。反動で思わず後ろにこけそうになるが宮侑が慌てて引っ張ってくれてなんとかこけずに済む。いや、馬鹿力すぎるやろ、こわっ!

「あ、ごめん!」

「良いけど…」

宮侑が私の肩から手を離して、そしてわざと咳払いをした。なんとか落ち着こうとしているのはわかるけどそわそわしすぎて全く落ち着けてない。顔どころか首や耳まで赤く染まっているし、口元はずっとにやけている。チラチラとこっちを見てくるのがなんとも言えずうざいが、そんなところも可愛いとおもってしまうあたり私もだいぶ重症なんだろうか。

「ま、まあ」

「なんや」

「俺も、名字のこと、まあまあ好きやし? そ、そこまで言ってくれるんやったら、付き合ってやらんこともないけ、ど、」

「付き合いたいけど、ミヤちゃんがそうでもないならやっぱええわ」

「あー! うそうそうそうそ!! めっちゃ好き!!!ほんまに好き!!!!」

つい悪戯心が働いてわざと帰るそぶりをしたら、必死に止めてくるもんだから思わず笑顔になってしまう。分かりやすすぎ、そして可愛すぎ。

「ほんまに好き?」

少し上目遣いを意識してそう聞き返せば、宮侑はうっと声を詰まらせた。目線があっちこっちに動く。もう下校時刻間際であたりにはすっかり人がいない。こんなこと聞くキャラじゃないのはわかってるけど、私もなんやかんや嬉しくてテンションが上がってるのだ。今日ぐらいこんなことしたって良いだろう。

「めっちゃ好きやわ…」

両手で顔を抑えて蚊の鳴くような声で宮侑はそう言った。ずるいわそんなん…という声も聞こえる。なにそれ、可愛い。ずるいもなにも、そんな態度の方がずるいに決まってるやん!


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