恋にきづくとき


きっかけは友達に彼氏が出来たことだった。

「彼氏かぁ…」

「…何の話」

机に突っ伏しながらそう言えば、目の前の月島から鋭い視線が来た。はいはい勉強しますよぉ。

今は放課後の教室。テスト前だけど本当に勉強がやばい私は、嫌がる月島に無理やり頼み込んで勉強を教えて貰っている。
私と月島は高校からの仲だけど、たまたま席が近かったのと私がずっと話しかけてたのもあり、結構仲が良い。こうやってめちゃくちゃ頼みまくったら勉強を教えてくれるぐらいには。いや、だって、月島かしこいし。教え方わかりやすいし。怖いけど。

体を持ち上げて伸びをして、私は再びシャープペンシルを持った。さて、とりあえず月島がいる時にこの数学の問題を倒さないとな。やる気は出ないけど、今頑張らないとテスト後に補修地獄が待っているから…。


「で、何の話なの」

さあ、倒すぞ! と意気込み解こうとした瞬間、月島にそう言われた。ええ〜いま私真面目に解こうとしてたんですけど〜、と思ったけど言ったら殺されそうだから言わない。

「なにが?」

「さっきの彼氏、とか言ってたの」

「…あー、なんかね、仲いい友達に彼氏が出来てね」

私は今まで彼氏がほしいと思ったことがない。好きな男の子とか付き合うとかあまりピンとこないからだ。そりゃあ月島みたいによく話す男友達とかはいてて楽しいけど、付き合うとなるとうーんっていう感じだ。

「へえ、それでなに。ほしくなったとか?」

「うーん、」

頬杖をついた月島にじっと見つめられ、私はシャープペンシルを置いた。どうやら月島は休憩モードみたいだ。わたしも両手で頬杖をついて考える。

彼氏が欲しくない理由の一つに、自分に縁がないと思っていたこともある。漫画とかドラマの中の話でいまいちピンと来なかったのだ。でも今、親友に彼氏ができたことにより、急に彼氏という存在が身近になってしまった。

「ほしいっちゃほしい、かな?」

「…へえ」

「まあ出来たらだけど」

そりゃあ幸せそうな友達を見てたらちょっと憧れたりもする。私だって好きって言われたり言ったりしてみたい。 まあそんな相手いないんですけどね!

「……あんたの好きな人って、やばそうだね」

「えっ!どういうこと!」

「まともな人じゃなさそう」

冷たい目をして言う月島に、私は慌てて否定する。

「いやいや!そんなことないから!」

「じゃあ、どういうのが好きなの」

「え、」

え、なに。好きなタイプの話? 友達とすらあんま話さないんだけど。今、私、月島と恋バナしようとしてるの? レア体験すぎない?
レア体験すぎて焦るけど、案外おもしろいかもしれない。私が言ったあとにもしかしたら月島の恋愛観も聞けるかもしれないし。うわすごい興味ある。

とりあえず私から話さないと。えーっと、と続けて私は思いついたことから話していく。

「背は、高い方がいいな」

「チビだもんね」

「うるさいな! あと優しすぎるのはいや」

「ドMなの?」

「いやいやいや。…甘やかされすぎたらダメになりそうだからほどよく厳しくしてほしい」

「もう割とダメだけど」

「うっ、刺さった…。あとはー、落ち着いてる人」

「自分がせわしないからデショ」

「いちいちつっこまないで!」

「…他は?」

「えっと、あとは…、あ。頭がいい人がいいな」

「馬鹿だから?」

「言うと思った……」

まあその通りだけども。とりあえず、自分の欠点を補ってくれる人がいい。

「あとは一緒にいて楽な人とか」

「楽?」

「自然体でいれる!的な」

「へえ」

「あげだしたら結構キリないね、これ」

あはは、と笑って続ける。月島は何故か無表情だった。あんた自分から振っといてもう興味無いの?

あと、好きなタイプって言っていいか分からないけど、私のことをすごく好きでいてくれる人がいい。私の頭には仲良さげに過ごす友達カップルが浮かんだ。ああやって、大切にされてみたい。
まあ言ったら全力で馬鹿にされそうだから言わないけどね! 恥ずかしいし! 鼻で笑われるのが簡単に想像できる。

「ねえ名字」

「なに?」

「今言ったのって、」

そういえば、何故か今言ったタイプに、既視感を感じた。

「ぜんぶボクじゃん」

「あ、」

たしかに、月島は背が高い。落ち着いてて基本冷たいけどたまに優しい。頭もいいし、話してたらけっこう自然体でいれるし、…当てはまってる! 全部当てはまってる! うわほんとだ!

「月島じゃん!」

「…なに無意識?」

「何も考えてなかった!」

すごいな、言ってみたらこんなに偶然一致するものなんだ。なんでだろう、目の前にいたから? こういうのなんて言うんだっけ。プラシーボ効果?

手を顎に当て下を向いてうんうん考えてたら、ボソリと月島の声が聞こえた。

「…そんなに一致するならさ」

「ん?」

「ボクと付き合えばいいんじゃないの」

「え、」

「念願の彼氏とやらが出来るよ」

え!こ、これは、月島が、…冗談を言ってる!? え、冗談だよね!? 珍しっ!!!

なんて反応すればいいかわからなくて、慌てて顔をあげれば、月島はそっぽを向いていた。頬杖をついていて表情はあまり見えない。

「月島?」

「……」

「冗談だよね?」

いや、顔が見えないから何考えてるのか分からない。冗談なら冗談だよって感じの、あの、いつもの人を馬鹿にしたような笑い方をしてくれないと分かりづ


「いや、…結構本気」


らくはなかった。

一瞬見えた月島の顔は、少し気まずそうにしていて。え、まじか。なんだこの感じは。
威力大な発言に対して私が硬直していると、月島は大きくため息をついた。

「ないわ…ださ」

「えっ」

「ダサすぎ」

そう言うと月島は、立ち上がって荷物を片付け始めた。
え? 解散? この微妙な空気のまま解散? 私に勉強教えてくれる約束は? てか今のこ、こ、告白的なあれはその、どうするの!?
私がパニックになってる中、月島はあっという間に荷物を鞄にしまい終えて。本当に帰ろうとしている。嘘でしょ!?

「じゃあね」

「あ、あの、月島、」

「……今のやつさ」

教室の外に歩いていく月島に慌てて声をかければ、月島は立ち止まってくれた。でも、私に背を向けたままで、その表情は読めない。

「ダサすぎたから、今度、もう1回ちゃんと言う」

「……え」

「だから待ってて」

今日はもうおしまい、と言って月島はそのまま教室を出ていってしまった。嘘でしょ。

いや、その、待って。え? これって、もしかして。

しばらくして、月島には言わなかった、私のことを好き、という条件も月島が満たしていることに気づいた私は独り身悶えた。


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