安全圏からの告白


「月島ってやっぱ超可愛くない?」

「そんなこと言えるの名字さんだけだから…」

山口が目の前でため息をついた。
今はお昼休み。話題の中心である月島が先生の呼び出しだかなんだかで教室を離れた隙に、私は山口のところに行って話を持ち出した。ら、山口のこの態度。極めて心外。

「なんでよー、あんなに可愛いじゃん」

「それ以前に怖いでしょツッキーは」

私と月島は中学からの仲だ。もちろん山口も。
月島と山口と同じクラスになったのは中学二年生の時。山口とはまあ話すけど月島とは全然話したことない頃の話。私はすこーしやんちゃをしていて、まあ、あれだ、校則違反とか、主に服装違反をちょこちょこしていた。

「え、だって覚えてる? 私の制服に対しての態度。」

「覚えてるけど…」

もちろん制服のスカートは切って短くしていた。そっちの方が可愛いと思っていたし。
生活指導の先生に注意されても、思春期まっしぐらな私は反抗しまくっていた。でもその時、同じクラスでたまたまそばにいた月島が、私の姿を見て「なんで好き好んでそんな綺麗でもない足出せるの、意味わかんない」と言い放ったのだ。

「あの時の月島の目はやばかったなあ」

「名字さんが怒られてるのうるさがってたからね、イライラしてたんだろうね」

「かわいい…」

「病気?」

私が月島をこんなに可愛い可愛いと言うのには理由がある。

スカートのことについて最初言われた時は普通にイラッとした。普段話したことないのにいきなり失礼なやつ。けど、それから先、何故か月島と話す機会が増えたのだ。

『今日も足出してるの。何アピール?』

『は?関係ないでしょ』

『あんたが怒られてるの、すごい耳障り』

『別にいいじゃん』

更に次の日も話しかけられた。

『また怒られてたデショ。うるさすぎ』

『うるさいのはせんせーだもん』

『自業自得』

『てか月島もうるさい。先生じゃん』

『……は?』

小煩い先生にくわえて月島までごちゃごちゃ言うようになってきたから、その次の日は久しぶりに校則に沿ったスカート丈で登校してみた。別に真面目になろうとかそう思ったのではなくて、その時は本当に月島がうるさいとおもったからだ。これで何も言われなくなる、そう思ったのだけど。

『なに、わざわざ新しいスカート買ったの、ださ』

『…元々2枚持ってるの』

そこで私は気づいた。こいつ、私のスカートどうこうではなくて、ただ嫌味が言いたいだけなのだと。


「そしてそのまま腐れ縁が続き三年間嫌味を言われるのでした、ちゃんちゃん」

「なんでそこからかわいいって思うようになったかが未だに不思議なんだけど」

「だって私がなにしても嫌味言ってくるんだよ? 愛しくない?」

「意味がわからない…」

最初はイライラしてたけど、私がなにかする度に一言いってくる月島を見てると、だんだん愛しさが出てきたのだ。だってそれもはやいちゃもんでしょ?ってレベルのことにまで絡んでくるのだ。誰よりも私のこと見てるし新しい髪型とか持ち物とか結構気づいてくれるんだよ…めちゃくちゃ可愛いじゃん…。絶対本人には言わないけど。ぶち殺されそう。

「俺はいつツッキーが怒るかと思うとヒヤヒヤだよ」

「でも月島、私に本気で怒ったことなくない?」

「まあないけど…」

それでも名字さんがいつやらかすかと思うと……と山口は続けた。心外の極みすぎる。私はそんな変なことはしない。月島が突っ込まないかなと思って今日はほんの少しだけ前髪を切ってみたけどそんな変なことはしない。

「あ、ツッキー戻ってきた」

「まじで? やば」

ちなみに月島は私が山口に話しかけると結構怒る。てか機嫌が悪くなる。山口のこと大好きだからってそんな怒らなくても……っていうぐらい機嫌が悪くなる。だからこうして、山口に話しかける時は月島のいないタイミングを狙って話しかけているのだ。
あわてて元いた席に戻ろうとしたけどその前に月島がやって来た。来るのはやっ。これだから歩幅の大きいやつは……かわいいな。

「…………何してるの」

月島の絶対零度の目。約190センチの身長から見下される馬鹿にしてくる目。この三年間で見慣れたやつだ。
山口が少し心配した目で見てくるけど私は動じない。山口のそういうところ割と可愛いと思うよ。月島の方が断然可愛いけど。

「山口と話してたの。なにか問題でも?」

にこっと笑って答えれば月島のまわりに吹雪が見えた。怒ってるなあ可愛いなあ。山口はもう俺知らない、というように机に顔を突っ伏した。

「あんたが話す必要なんてないデショ」

「月島にどうこう言われる筋合いもないよ」

「……あっそ、早く自分のところに戻れば」

「えーやだよ、どうせだから月島も一緒に話そ?」

ね?と言えば月島はわかりやすくため息をついて、そのまま私の横の席に座った。ほら、こうやってなんだかんだ拒絶しないところとか、本当に可愛い。

「…別にあんたと話すことなんか、ないんだけど」

「私も特にないかなあ」

「じゃあさっさと戻りなよ」

「冷たくない? あ、私見てなにか気づかない?」

「……見たくもない顔が良く見えるなってことぐらい」

月島は私の顔を一瞥してそう言った。
ほら! やっぱり気づいた! 前髪に気づいた! ほかの人が気付かないような違いでも月島は絶対に気づく。嫌味しか言わないし、冷たくあしらうけど、それでも必ず気づいてくれるのだ。

「ふふ、」

「何笑ってるの、気持ち悪い」

「なんでもなーい」

じゃあね、とひらひら手を振って私は自分の席に戻った。今日はもう、満足。月島はやっぱり私の変化に気づいてくれたし。本人にはバレないようにしてるけど、やっぱりそういう所、すごく愛しい!





「……ツッキーさあ」

「なに」

「よく気づくよね」

「なにが」

「俺、ツッキーが言うまで分からなかった」

「…だからなにが」






そんなやり取りをしてから数日後。私は思いっきり風邪を引いた。

「寒い……」

ずび、と布団の中で鼻をすする。
朝から熱があったので今日は学校を休んだ。親は共働きで、かつ運の悪いことに今日は出張らしい。なので家で一人留守番。もう夜なのに、少し寂しい。明日は絶対学校に行く。そして月島と喋る。何故なら可愛いから。

てかこの風邪絶対、昨日、月島に見せるためにスカートを短くしたのが原因だ。我ながら馬鹿すぎる。
でも案の定月島が突っ込んできたから満足だ。なんなら明日はこの風邪をひいたことに関して嫌味を言ってくるだろう。想像しただけで可愛い。どんな嫌味でも許せる。

私はもはや、何言われても喜んでるだけなのに、なんで月島はわざわざ嫌味言ってくるんだろう。私が嬉しそうなの絶対気づいてるよね。さすがに可愛いって思ってるのは隠してるけど、ダメージ受けてないのとかは多分ばれてるよね? それでも言いたいのかな? 嫌味をどうしても言いたいのかな? 月島可愛いな?? 知ってた。

ピコン、と携帯がなる。山口からラインが来ていた。時計を見るともう7時だった。あ、ちょうど部活終わったぐらいか。結構寝たな……夜ご飯どうしよう。

『風邪大丈夫?』

『だいじょばない』

『えっ、そんなに症状重いの?』

『いや、もう超元気』

『元気なんかーい!』

月島にはすごい嫌な顔をされるけど、私と山口は結構仲が良い。月島絡みというのもあるけど、そもそもの性格が合っているのだ。だからこうしてラインのやり取りもするし割と軽口も叩く。ちなみに月島とはラインすらしたことない。多分すぐブロックされる。

『また今日の分のノート見せるね』

『山口大好き!!!』

ハートのスタンプを連打すれば『通知うるさい!』という返事が来た。女の子からのハートのスタンプだぞ、もっと喜んでよ山口。

『馬鹿じゃないの』

なんて返信しようかな、と悩んでいたら山口から追加でそう送られてきた。

『風邪ひくとか本当に馬鹿』
『なにしてんの』
『馬鹿は風邪ひかないと思ってた』

え、こ、れはもしかして、この人を小馬鹿にした言動は、もしかして、

『月島!?!?!?』

『ごめん、携帯取られてツッキーが勝手に送った!』

『めちゃくちゃスクショした…尊い……月島相変わらず超絶可愛い…………』

『ツッキーがめちゃくちゃ引いてるからやめてあげて』

『えっ』

あ、……やばい。

『どうかした?』

『このやりとり、つきしまみたの?』

『え、あっ、』

これは結構やばい。忘れてたし素で返信してしまったし、山口ちょ、お前、あ、かなりやばい。え、やばすぎて、え????

私は今まであくまでも、月島可愛いという姿勢を本人に見せないように過ごしてきた。頑張って本人の前では出さないように抑えてきた。のに、

『まじで、嘘、え、』

『あ、ごめん、名字さん、』

『つきしまみたの?ね?ほんとに?』

『わすれてた』

『死にます』

『しっかりして!!!』

これはもう……自害するしかない……最悪だ……三年間隠してきたのに……これバレたってことはもう嫌味も言われない人生……そんな人生は嫌だ。絶望。
布団にくるまってると、あああああと声にならない声が出る。ほんっとうに絶望だ、明日からどんな顔して月島に会えば……。


ピコン
ピコンピコン
ピコン


携帯がうるさい。人が絶望に打ちひしがれてるってのに、誰だ!!
ぶちぎれながら画面を開けばまず、山口からの通知が出てきた。

『ごめん名字さん、』
『ツッキーが連絡先って言ったから』
『教えちゃった』

「……は?」

次の通知を見れば『月島蛍』と書いていた。え? 月島からライン? なんで? あ、可愛いって思ってたことに関しての激おこライン? 死刑宣告か?

『絶対出て』

恐る恐る開けば、月島からのラインはその一言だけだった。出る……ってなにに? 地獄の審判にか?

首をひねってると、突然ラインの着信がきた。かけてきた相手はもちろん、月島蛍。……出ろって電話にか! いやいやいや怖すぎる!!

「も、もしもし?」

だけど出ない方が何万倍も怖いのでもちろん出た。いや出ないと確実殺されるじゃん? 出ても殺されそうだけどまだ生き残る可能性が微妙にある。本当に微妙だけど。

『………………ねえ。』

出てからすごく間が空いて、月島の声が聞こえた。

「…ハイ」

『僕のこと可愛いって思ってたの』

「あの、その」

『馬鹿でしょ』

本当に馬鹿、と続けて聞こえてきた。

『なんでそう思ったわけ』

「え、……いやあ、まあ、いろいろ」

『ちゃんと言って』

「アッ、わかりました!!」

月島の威圧感ある声に思わず敬語になる。え、怒ってるのこれ? 怒ってはない気がするけどなんかめちゃくちゃ怖いんだけど……??

「えっと、月島は私の細かい違いに気づいて、嫌味とか言ってくるじゃないですか」

『……』

「それが、その、可愛いなあ、と思っていまして……」

『…………』

「…………」

『………………』

む、無反応だと……!?!? そんなに呆れてる!? え、あ、まあ呆れるのかこれは!?! もう私月島可愛いと思う歴長すぎてどこがおかしいとかよく分からないんだけど!?

『………………あのさあ』

「な、なんでしょう?」

『なんで気づくと思う?』

「え?」

『違いになんで気づくと思う?』

「え? えっと……」

『これが分からないんだったら、ほんっっとうに馬鹿だから』

じゃあね、と言って電話は切られた。
えっと、それはもしかしてもしかすると。

「あー……」

気づいた瞬間、熱が再び上がった気がした。……明日休んでもいいかな。どんな顔して学校に行けばいいんだろう。



ちなみに次の日、本当に熱がぶり返したので普通に学校を休んだ。そしたら夜に月島から鬼のように電話があったので、そのまま電話に出て、そこで答え合わせを行う羽目になった。答えをいう月島の声は、珍しく震えていた。……気がする。


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