まるで人の子のように


「お前まじかよ。」

「?なにがや。」

夏休みに入って、ちょうど全員の予定が合ったので久しぶりに部活に顔を出した。若松もうまいこと主将をやってるみたいだし青峰も練習にちゃんと出ていた。ええことや。
ある程度指導をしたとこで昼休みに入り、ワシと諏佐はコンビニで飯を買いに来た。そこで、そう言えばあいつのことを話してなかったなと思い、話して冒頭に至る。

「いや、お前、え?まじ?」

「だからなんやねん。」

諏佐は心底不思議そうな顔をしている。こいつのこんな顔珍しいな。じゃなくて。
今はコンビニからの体育館に戻る途中。高校時代、何度も歩いた懐かしい道を今2人で歩いている。

「自覚ねーのか…。」

「はっきり言えや。」

ぼかされて言われるのはあまり好きじゃない。そう思って言えば、返ってきたのは予想もしない言葉だった。

「名字のこと好きなんだろ。」

「は、」

…あいつのことが、好き?
そう言われて頭の中に名字が浮かぶ。…いやいやいや、ないわ。

「うん、ちゃう。」

「でも毎日家で一緒に飯食ってんだろ。恋人じゃねーか。」

「てか元はといえば、お前が名字にワシんち教えたせいやろ。」

「あー、そういえば。」

「それであいつうち来るようになったんやんけ。」

「だって名字がお前の家知らねえって言うから。」

「せめて先こっちに確認とれや。」

「わりいわりい。で、どうなんだよ。」

「…あんなんただの餌付けやわ。」

餌付けって、と諏佐は少し笑った。
名字に飯を作るのは、本当に餌付けに近かった。だってあいつ、旨そうに食うから見てておもろいし。色々変やから一緒におって飽きへんし。

「まずお前、あいつ以外に世話焼いたりしねえだろ。」

「そりゃな。」

元々そんな世話焼きな方でもない。ただ名字はなんだか見ていてそそっかしいから手を出したくなるだけだ。そう、名字だけ、

「ほら、やっぱし。」

「やっぱしってなんやねん。」

まあ確かに、名字を見ていたらたまにほんとたまに愛しく見えることがある。あいつアホやし。まあ嫌いではない。

そうか…

「…おい今吉、お前今めっちゃ悪い顔してんぞ。」

そうかそうか。


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