あれから1ヶ月。 本当に毎日名字は飯を食べにうちに来た。そしていつの間にか2人分のメニューを考えるのが日課になった。 「今日はバイトで1時間ぐらいおそなる」、そう名字にメールをすれば返事は「ういっす!」というものだった。こいつほんまに女子か? スーパーに寄って家に帰ると部屋のドアの前に人影があった。一瞬びっくりするがよくよく目を凝らして見ればそれは名字だった。 「…なにしてん。」 「あ、やっほー。」 「今日おそなる言うたやろ。」 「待ちきれなかった!」 「…アホか。まあええわ入れ。」 「はーい。」 鍵を開けて促せば名字は素直に中に入った。この光景ももう見慣れたものだ。 「今日のご飯はなーに?」 「ラーメン。」 「ひゃっほーい!今吉のラーメン好き!」 そしてこのやかましさにも慣れてきた。いや、名字は高校の時からうるさかったけども。 食事の準備を進めれば名字は食器を並べ始めた。時の経過とは恐ろしいもので、こいつはもう、うちの食器の位置を全部把握している。 「ほい、これ運んで。」 「オッケー。」 ラーメンを作るのにそんなに時間はかからない。出来たやつを用意されている器によそって名字に渡す。大人しく運ぶその後ろ姿を見ているとなんだか変な気分になった。ここ最近ずっとそうだ。 もやもやとした気持ちを抱えながら一緒に席に付けば、いただきまーす!といつものように名字が叫ぶ。こいつはいつになっても静かに食べ始められへんな。 名字は口をもごもごさせながら、ねえ、と口を開いた。 「今吉って彼女いないの?」 「なんや急に。」 「純粋な好奇心。」 「おったら毎日お前と飯食ってるわけないやろ。」 「それもそうか。」 「お前はどうなん。」 「いたら今吉の家で毎日ご飯食べてないよ。」 「それもそやな。」 「まあ今吉ならすぐに彼女できるよ!」 「なんの慰めやねん。」 「料理うまいし。」 「結局そこかい。名字は出来なさそやな、彼氏。」 「えっまじか。」 名字は顔を手で覆いながら、やっぱ合コンに行くべきなのか…?とブツブツつぶやき始めた。少し想像してみるが、こいつが合コン、うん、似合わん。 「合コン行くなら、ちゃんとワシに飯いらんって連絡するんやで。」 「あー、でも今吉のご飯食べたいから行かないかな!」 そう言ってニカッと名字は笑った。…なんなんこいつ。 ← → 戻る |