永遠はひそかに息づく


「うわ、マジで来よった。」

「やっほー今吉!」

インターホンが鳴ったので扉を開ければ、そこにいたのはいえーいと両手を上げる名字だった。ちょうど昨日と同じ時間。どうやら昨日言っていたのは冗談ではなかったみたいだ。
名字は、今日のご飯はなにかな〜と言いながら部屋にずかずかとあがりこんでくる。ほんまなにこいつ。人んちに来た態度ちゃうやろ。実家か。

「お前、せめてこれからは来る前に連絡せーや、最低限。」

「私今吉の連絡先知らないよ?」

「…ああ。」

そうやった。名字とは仲が良かったけど、高校の時はほぼ毎日会ってたしわざわざアドレスを交換したりはしなかった。しゃあないな、と言ってワシは自分のスマフォを取り出し名字に向かって投げる。名字はうおっ!と変な声をあげつつそれを受け取った。まぬけな声。

「今ロックかかってへんし、アドレス登録しとけ。ワシは飯の準備しとくから。」

「え、いかがわしいやつとか消す時間なくていける?」

「ないわボケ。ええからはよやれや。」

「うっす!」

そんなヘマするか、と心で思いつつも飯をよそいにキッチンへ向かう。今日はカレーだ。作っていた分を温めなおして味見をする、普通の味だ。決してわざわざ好んで食べに来るような味じゃない。
カレーを適当に皿に盛り茶を入れて名字のいるところへ持っていく。

「ほら。」

「わーい私カレー好き!今吉これはいスマフォ返すね。そんであとでメールすんね。じゃあいただきまーす!」

「せわしないな。」

「うーんうま!おいし!やば!おいしい!」

「落ち着いて食えや。」

おいしいおいしいと馬鹿みたいに連呼しながら名字は食をすすめていく。だから普通や言うてんやん。

「ごちそーさま!」

「はっや。」

パン!と手を合わせて名字は律儀に頭を下げる。そしてなにかを思い出したように、ガサゴソとカバンをいじりはじめた。

「そうそう今吉これ。」

「…なんや?」

はい、と渡されたのは四角い貯金箱だった。渡されたそれを手の中でくるくると回せば「食費代!」と書いてある面がある。高校の時に何度も見たこの特徴的な丸字は、名字のものだった。
箱を振ればチャリンチャリンと音がした。もうすでにいくらか入っているみたいだ。

「とりあえず、これからは来る度に300円入れてくつもり。足りる?」

「足りるけど、なんやお前、月に1万もワシに払うほど余裕あんのか。金持ちやな。」

「こないだからバイト始めたからね。」

「なんの?」

「家庭教師!」

「うわ、お前アホやのによーやるわ。」

「ア、アホじゃないし!」

「高校の時、テスト前にいっつも泣きついてきたのは誰や。」

「その件に関しては大変感謝しております。」

ははーっと言って名字は深く頭をさげてくる。それをスルーして、ワシは棚の上に貯金箱を置いた。


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