そうして甘く溶かした


「やっほー!こんばんは今吉!」

「…は?」

大学生活にも慣れ始めた5月の夜のこと。ちなみに時刻は夜8時。インターホンが鳴ったので出てみれば目の前には笑顔の名字。いや、なんでやねん。

名字とは高校からの付き合いだった。クラスが一緒になったことはなく選手とマネージャーの関係だったが、何故かお互いウマが合い仲が良かった。
だが別の大学に進んだことにより、ここ最近は特に交流がなかった。なのに、

「とりあえず家あげて!ね?ね?」

「急に来てなに言うとんやお前。てかなんで来たん。」

「いや、私の大学と今吉の家が近いってことを諏佐から聞いてさ。ご飯食べに来た!」

「は?」

「今吉料理うまいじゃん?なんか食べさせて。」

そう言って名字は家にあがろうとしてくる。だからちょお待てや。なんやこいつ。
結局、制止の声を聞かない名字はそのまま家にあがりこんできた。幸か不幸かちょうど夜飯を作っていたところで、名字は目を輝かしてキッチンを見ていた。

「うっひょ、さすが今吉おいしそう!」

「…別に普通や。お前のがおかしいだけやろ。」

そう、名字は料理が下手だ。同じくマネージャーだった桃井もなかなかだったが名字もそれに並ぶとも劣らずだった。
ワシはため息をつきつつも料理の準備の続きを進める。いつも多めに作る方なので名字の分ぐらいの余裕はあった。

「…せめて連絡しろや、あほ。」

「そう言いつつ私の分のご飯を用意してくれるあたり今吉やっぱ優しいよね。」

そう、なんやかんやいいつもワシはコイツに甘い。なんでかしらんけど結局甘くしてしてしまう。なんでなんやろ。

「ほら、食ったらさっさと帰るんやで。」

「わーい!今吉ありがとう大好き!」

「声デカイで自分。」

「おいしそー!」

「話聞けや。」

適当に作ったやつやのに無邪気に喜ぶ名字を見て、もう1回ため息が出た。ほんまこいつ、あほやろ。

「いただきまーす。」

「材料費払えよ。」

「うん、やっぱおいしい!」

「だから話聞けや。」

「あ、うん聞いてる聞いてる。材料費払うから毎日来ていい?」

「…は?」

「じゃあ明日からよろしくね。」

「いやいやいや、なんでやねん。おかしいやろ。」

「今吉のご飯おいしいんだよね。今吉シェフ、よろしくお願いします!」

「…お前ほんま自由やな。」

「褒めてる?」

「褒めてへんわ。」

そうは答えつつも、だらしなく笑いながらうまそうに食べてる名字を見てると、飯代払うならまあええかなという気持ちになる。
一人暮らしで他人が恋しくなってるんやろか。アホらし。


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