決して考えたことがないわけではなかった。なのにどうして、可能性を心の中で否定し続けたんだろう。 「名字のこと、好き。ずっと前から。」 それは、紫原に嫌われるのがいやだったからだ。じゃあ、なんで嫌われるのがいやなのか。 紫原が私を抱きしめる力は一層強くなった。苦しい。それでも不快にならないのは、紫原の胸の鼓動が私にも伝わってくるからだ。とても早いそれは、紫原の気持ちをそのまま表しているようで、なんだか可愛い。 そうだよ、私は、とっくの昔に紫原のことが 「………好き。」 「え、」 「紫原のことが、…好きって言ってんの。」 好き。たった2文字の言葉なのに、どうしてこんなにも言いにくいのだろう。顔が熱くて、どうにかなってしまいそうだ。 紫原は私の肩を掴みガバッと胸から引きはがした。そのまま私の顔を凝視する。うわ、紫原の顔真っ赤だ。耳までばっちり赤く染まっている紫原を見ていると、どうしようもなく愛しく思えてくる。かわいい。 「…てか、好きじゃなかったらわざわざ秋田までこないし。」 陽泉に行こうと決めた時、親には物凄く反対された。それでも行きたいと思えたのは、紫原と居たかったからなんだろう。…多分。 「なにそれ。」 もっと早く言ってよね、とそう言って紫原は再び私を強く抱きしめた。先程よりも早い心臓の音が聞こえる。胸を伝って聞こえるそれが、今はとても心地良かった。 紫原は、ゆっくりと私を胸から離して、私の顎に優しく手を触れた。そのまま上を向かされて自然と目があう。普段は私よりはるか上にある紫原の目が、今は私の平行線上にあった。 紫原の顔が徐々に近づいてきて私はゆっくりと目を閉じる。そうすればすぐに少しかさついた唇が私の唇と重なった。その行為に、いよいよ私の心臓は壊れそうになる。ほんともう、限界。 そのまま何度かお互いの唇を重ね合わせ、そして離れる。 「…名前。」 …あのさ。普段は可愛いくせに、こういう時だけかっこいいとか、反則すぎ。 ← → 戻る |