平行線は認めない


ドリンクを作りながら練習を見る。いつもと変わらない。
それなのに、昨日の福井先輩とのやりとりのせいで、紫原を見ていると心の底にもやもやが残る。
紫原との関係を聞かれることは中学からよくあった。別に昨日のあれが初めてではない。

「(でもなあ…。) 」

質問は大抵“私が紫原を好きかどうか”だった。そして私はいつも「好きだけどそういうのじゃない」と返していた。紫原が私のことをどう思っているのか、それを聞かれたことはない。だけど今回、福井先輩はその答えを知っている。

「はあ、」

なんか、もやもやしてしんどいな。

「…ため息とか幸せ逃げるよ、ただでさえ幸薄そーなのに。」

「うわお。」

噂をすればなんとやら。私の背後にはいつの間にか紫原がいた。
お前を思ってのため息なんだよ、とはさすがに言えない。私は楽にいきたかった。楽しく、今のままで。
私は紫原をジッと見つめる。

「…なに。」

紫原の様子に普段と変わったところはない。福井先輩に私のことを聞かれたはずなんだけど、この様子だと大して気にしていないのだろう。紫原が気にしていないのに私が気にするのも変な気がした。

「なんでもないよ。」

まあこのままでいいや。



「紫原ー。」

いつも通り紫原の部屋を足でノックして開けてもらう。
紫原の部屋の中央にある机、そこが私たちの定位置だ。そこで今日行われた練習についてや、物理の授業で分からなかったところを教えてもらう。

「おおー、出来た出来た。」

「こんなん出来ないほうがおかしいし。」

「紫原が賢いんだって。」

うん、今日も紫原先生の指導はわかり易かった。用も済んだし、じゃあまた明日と言って立ち上がろうとする。
しかし、

「…。」

「…?」

紫原に腕を掴まれたせいで私は立ち上がれなくなる。とうの紫原は無言だ。

「どしたの。」

「…あのさあ、」

福ちんに、聞かれたでしょ?

紫原はそう続けた。何を言っているかはすぐに分かる、昨日のことだ。
なんのこと?と誤魔化そうかと思ったが、紫原の強い視線はしっかりと私の目を捉えていた。

ああ、これは逃げられないやつだ。


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