お望み通りに蹂躙


私と紫原の話をしよう。

知り合ったきっかけは中学1年生の時、一番最初の席替えで席が前後になった。その時の私はやたら背の高い奴と近くなったなと思いつつよろしくね、と紫原に声をかけた。
すると、

「は、別によろしくなんてしねーし。」

そう返ってきた。しかも凄い仏頂面で。
そのせいで第一印象は、なんだこいつ。それに尽きた。

しかしそれから色々話す機会があり、少しずつだけど仲良くなっていった。それと同時に紫原のことがだんだん可愛く見えてきた。お菓子食べるときの顔とか。
そして、その頃あたりに気づいたことがある。

「紫原、数学教えて。」

「は?なんでわざわざ。」

「お願い。」

「…しゃーなし。」

「(そう言う割にはめちゃくちゃ嬉しそうな顔してんじゃん。)」

紫原はどうやら、あまのじゃくのようだ。
ただこいつのあまのじゃくな性格は私限定らしい。バスケ部の部員らしき人達と話している紫原を何度か見たが、別にこいつは普通だった。なんで私にだけこうなんだろう、と何回も思った。


そして中学2年生の時、またクラスが同じだった。
紫原は相変わらず私にだけ暴言を吐いてきたが、私はその時すでに紫原があまのじゃくと理解していたので、もうなんとも思わなかった。新手のツンデレだと思えばむしろ可愛く見えた。

紫原は、私に強く当たってくる割には私の所にしょっちゅう来た。そして、修学旅行などのイベントを一緒に過ごすことにより私たちは更に仲良くなった。


中学3年生の時、またまたクラスが同じだった。奇跡かよと思った。
そのまま1・2年と同じように、一緒に過ごす日々が過ぎ、そして高校受験がやってきた。

「俺、陽泉高校行くんだよね。」

ある日の放課後、私が進学希望校調査の紙の前でうんうん唸っていると、紫原は突然目の前に現れてそう言った。てかお前部活はどーしたの。

「ようせん?どこそれ。」

「秋田、そんなんも知らないとか馬鹿じゃねーの。」

「馬鹿じゃないけど。」

「バスケ強いし校風もいいし、羨ましいでしょ。」

「でも秋田って超遠いじゃん。通えないし。」

「寮あるから関係ねーし!」

「へー。」

「頭いいとこだから、名字はまあ賢いけど、よっぽど頑張んないと来れないだろーね。俺は推薦だから余裕だけど。」

「来てほしい?」

「…全然。」

「じゃ、私は海常にしよっかな。青好きだし近いし。」

そう言って手元の紙に海常と書こうとすれば、突然伸びてきた紫原の腕により紙はぶんどられた。そのままぐちゃぐちゃに丸められてゴミ箱に投げ入れられる。ちょ、それ私の紙なんですけど。

「なにすんの。」

「……紫のほうがいーし。」

そこかい。
ブスッとすねたような顔をする紫原を見て笑いそうになる。私には、紫原の考えていることがはっきりと分かっていた。
再び「来てほしい?」と聞けば「別に。……でも、名字が来たいなら来ればいんじゃねーの」と返ってくる。本当に素直じゃない。なにが別に、なのじゃあなんで私が海常行くって言っただけでそんな拗ねんの。
まあ、でも、紫原はそんな素直なことは言わないよね。うん。そのぐらい、3年間親しくしてきた経験上充分理解している。

「そだね、紫のほうがいいね。」

仕方ない、ここは私が折れてあげよう。

後日新しく貰った進路調査の紙に、私は陽泉高校と書いた。親を説得するのはたいへんだったが、紫原といたら退屈しなさそうだし、楽しそうだし、まあいいか。



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