あつい頬を隠したくて


※大学生になり虹村が日本に戻って来たという設定です。



「好きです、付き合ってください」

真剣な顔でそう言われて戸惑ってしまった。
風が吹いて彼の髪がなびく。照れて伏し目がちになっている顔が前髪で何度か隠れた。切れ長で綺麗な目だ。

私は今、告白をされている。正直実感がわかない。なにこれ、どういう状況?

「えっと、…ごめんなさい」

丁寧に頭を下げてお断りをした。すると目の前にいる男の子は、あからさまにショックを受けた顔をした。目を見開いてえっ、と言うが聞こえる。

彼の名前は虹村くん。同じ大学の一つ下の後輩だ。私はバスケサークルのマネージャーをしていて、虹村くんはサークルにこの間入ってきた一年生である。そう、この間、入ってきたのだ。

「なんでっすか」

「いや、だって、」

虹村くんは不満そうな声を出した。そんな不満そうにされても困る。なぜなら、

「虹村くんのこと、私、全然知らないし」

私は彼のことを全く知らない。

「私たち、まだ会ったばっかじゃん…」

虹村くんと話すのは今日で三回目なのだ。



私が虹村くんと初めて会ったのはサークルの勧誘だ。マネージャーとして、見学に来てくれた一年生を相手に話していて、彼はその中に居た。居たと言っても、特に親密に話したわけではない。背が高い子がいるなあという認識だった。
二回目に会ったのは新入生歓迎会だ。歓迎会という名の飲み会である。居酒屋で行われた歓迎会では、虹村くんと同じテーブルで割と話した方だとは思う。けど、他の人とも話したし、虹村くんにだけ特別扱いをしたわけではない。

そして三回目は今日。お昼休みに食堂でぼっち飯をしてたら虹村くんが目の前の席に座ってきたた。最初は誰かわからなかったけど、名字さんと声をかけられて、サークルの後輩だということに気がついた。無視をするのも変だと思い、無難にサークルの話や大学の話をしていたら、この後時間ありますかと聞かれたのだ。そしてそのあと呼び出されて、まさかの告白。

「いや、なんで?」

「なにがすか?」

思わず声に出したら、当の張本人、虹村くんは涼しげな顔でこっちを見た。なんでそんなに冷静なの?

ここは居酒屋。あの後、振った後に何故か虹村くんに今晩一緒に飯食いに行きませんかと言われた。断る間も無くあれよあれよと言う間に予定が決められ、結局ご飯に来てしまったわけだ。まあ、うん、私の流されやすさにも問題がある。

「いろいろ聞きたいことがあるんだけど…」

「どうぞ」

注文した料理を食べながら、私は思い切って聞いてみることにした。

「なんで私に告白したの?」

虹村くんが私の目をじっと見つめてくる。なぜか私が緊張してきた。落ち着け、私は先輩だ。虹村くんはあー、そうっすね、と口を開いた。

「まず、顔がすごくタイプです」

「か、顔?」

真面目な表情で言うもんだからドキッとした。顔? 私の顔が? …そんなこと、人生で初めて言われた。

「話したり歓迎会の様子とか見てて、なんか色々本当俺のどストライクで、」

一呼吸置くために、虹村くんは飲み物を飲んだ。私は何も言えなかった。心臓がばくばくと音を立てている。

「…しかも歓迎会で彼氏いないって言ってたから、チャンスだと思って」

だから告白したんす、と小さな声でそう言った。た、確かに歓迎会でベロベロに酔った先輩に名字は彼氏いないもんなと暴露されたけれども。まさかそんなところを拾ってくるとは思わないじゃないか。

「えーっと、気持ちは嬉しいけど……」

虹村くんはイケメンだ。正直、こうして近くで話していると顔がかっこいいなと内心思っていた。背も高いしモテる気がする。でもそれだけだった。嬉しいことに虹村くんは私に一目惚れ?をしてくれたみたいだけど、だからといって付き合おうとは思えない。そもそも虹村くんのこと、まだ全然何も知らないし。

「私やっぱり虹村くんとは、」

「大丈夫です」

「え?」

もう一度ちゃんと断ろう、そう思ったのだが私の言葉は虹村くんに遮られた。虹村くんは私から目を逸らして、ふうと一つ息を吐く。

「断られるかもしれないって思ってました」

目が合って、頬が少し赤くなっていることに気付いた。

「でも、俺が名字さんのこと好きって知ったら少しは意識してくれますよね」

「え、」

………これは結構ときめいた。

ええええ、な、なんだその台詞は。少女漫画か。意識させるとか、策士か。虹村くんは自分で言った言葉にちょっと照れていて、可愛いなと思ってしまった。

「…サークルでは普通にしててよね」

ときめいているのを悟られたくなくて、我ながら可愛くない言葉が口から出てきた。もちろんっす、と真面目な顔で虹村くんはそう言った。

「サークル外で頑張ります」

「そういうことじゃないんだけど…」

「俺、簡単には諦めないし本気で好きなんで」

「………」

その視線から逃げるように私は両手で顔を覆った。正直、もう絆されそうな自分がいる。


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