ネタ帳の「赤司にいたずらする先輩」のネタ ターゲットの背中発見。 奴は遠くから見てもよく目立つ赤髪をしていて。いくら学年は違うとは言え見つけるのは簡単だった。 昼休みで賑わう廊下をそろりそろりと歩いて、奴に近づく。ばれないように、ゆっくりと。周りの好奇の目は気にしないようにして。 近づいてみると、奴はなにやら書類の束を持っていた。……こりゃ派手に驚かす事は出来ないな。下手に激しいことをしてこれをばらまいたら、大変なことになる。なら、あれしかない。 「あかしっ!」 「はい。…っ!」 ぷに。とそんな音が聞こえた気がした。 トントンと肩を叩いてその名を呼べば、赤司は律儀に振り向いた。しかしその先には私の手があって。更にその手は人差し指を突き出していて。 見事に私の人差し指は赤司の頬に刺さった。 「うひゃひゃ! また引っかかった!」 「…またこんなことして…一体いくつですか。」 「赤司の一個上かな!」 そう笑顔で言えば赤司はため息をついた。 それにしても指が刺さった瞬間の赤司のぽかんとした顔面白かったな。これだから赤司へちょっかいかけることはやめられない。 「全く、学習しなよ赤司ぃ。」 「あなたこそ、何回やったら気が済むんですか。」 「正直飽きないね。」 私と赤司が出会ったのは1か月前。友達の怜央ちゃんと喋ってる時に、赤司が部活の話をしに来たのがきっかけだ。 その時は、あ、これがあの有名な赤司くんか。程度の気持ちしか持ってなかったし、赤司から見た私もただの部活の先輩の友人だったのだろう。とにかくそれが私たちのファーストコンタクトだった。 私たちの関係が変化したのはそれから1週間後。 その日は私と怜央ちゃんが日直の日で。たしか私は怜央ちゃんに確認したいことがあって、放課後にバスケ部の部室に行った。そこで怜央ちゃんと話したのはいいのだが、何故かそのまま部室に携帯を忘れてしまった。しかもその事に気がついたのは家に帰ってからだった。 現代っ子で携帯依存症な私が次の日まで携帯がない状況に耐えられるはずもなく。私は日が暮れるかくれないかという時間帯に、学校へと戻ったのだ。 私が部室についた時はもう部活は終わっていた。部室には電気がついていて、もしかして誰か着替えてるかもしれないと思った私は扉をノックした。しかし返事はなかった。 電気消し忘れたのかな?と思いそろそろとノブを回せば鍵は開いていて。小声でおじゃましますと言いながら入れば、そこには赤司だけがいた。 そう、椅子に座っていて、目の前の机に部誌を広げて、腕を組んで、居眠りをしている赤司が。 あの赤司くんも居眠りとかするんだなあ、まあ部活も生徒会もこなしていて忙しいって怜央ちゃん言ってたもんなあ、と思いつつも私は携帯を回収した。そして赤司を起こすか悩んだ。だって練習後にこのまま寝てたら風邪引くと思ったし。 ただ、ほんの好奇心だったのだ。普通に起こすんじゃなくて、もし、もし、……目の前で手を叩いたら、赤司が飛び起きるかもしれないという気持ちは。 やるかやらないか躊躇したのは一瞬で。私は思いっきり赤司の目の前で手を叩いた。 パァン!! 「っ、!!」 なんと赤司は肩を震わせて飛び起きた。 もしかしたら怒られたかもしれないその行動は、赤司のびっくりした顔を私に見せてくれた。私もびっくりした。 とにかく。そんな事があってからというものの、私は赤司を驚かす事が辞められなくなってしまった。だって普段あんなに澄ました顔してるのに、驚く時は猫みたいに目を見開くんだもん。可愛いじゃん? もっと見たいじゃん? ならやるしかないじゃん。 そんなふうに回想に浸っているとチャイムがなった。あ、やば、次の時間数学じゃん。はやく教室に戻らねば。 「んじゃね、赤司!」 「あ、ちょっと、」 「また後で!」 片手をあげてそう言えば赤司は私を引き止めようとした。が、私は止まらなかった。まあどうせまた会いに来るし。何か言いたいならその時で! (また後で、か。) 5時間目の授業中。赤司は先ほど名字に言われた言葉を思い返していた。 赤司は最初、名字のことが苦手だった。というのはもちろん、寝ている時に猫だましをされたからである。普段人に見られないような表情を見られて恥を覚えたし、先輩とはいえ腹が立った。 しかもあの日から、馴れ馴れしいことにやたらとちょっかいをかけてくる。今日のもそのちょっかいのひとつだ。 (あの人は知らないのだろうな、この目を。) 赤司はエンペラーアイを持っている。ホークアイのように俯瞰した視界は持っていないが、それでもさっきのような悪戯には本来なら引っかからない。それでも、ひっかかるのは、 いつからかはわからないが、赤司は名字に好意を抱いていた。悪戯が成功した時の無邪気な笑顔や、他の人とは違う赤司を恐れないその接し方に。 (今日はまた後で来てくれるのか。あの楽しそうな笑顔と一緒に、俺に悪戯をしに。) 赤司は少し楽しみになった。学年が違うのに、わざわざあちらからやって来るのだ。見えていてもまた、わざと悪戯に引っかかってやろう、と赤司は思った。あの笑顔が見たいからだ。 しかし放課後、後ろから丸めたノートで頭を叩かれそうになった赤司は咄嗟にかわした。 「あれ? よけられた。」 「…………たまたま見えたので。」 「(なんで気まずそうなんだ?)」 ← → 戻る |