愛ならば仕方ない


「ふはっ、…ご愁傷さま。」

指をパチンと鳴らしてそう言えば、あたりに静寂が響いた。




「ぶっ……あっはははは!! なにそれ名字うますぎでしょ!」

しばらくして、原ちゃんはお腹を抱えて笑い出した。私の渾身のモノマネはどうやら大ウケのようだ。タイトルは、指ぱっちん花宮。

「そっくりさやばくない? 自分の才能が怖い。」

「いや〜超おもしろかったわ。」

原ちゃんは笑って乱れた呼吸を整えて、そう言った。
今は放課後、テスト期間で部活が休みだひゃっはー!と思っていたのだけど私たちは今日日直だ。残って日誌を書いたり教室のごみ捨てをしないといけない。せっかく早く帰れると思ったのにつらたん。

ただ真面目に日誌を書いても面白くないと思い原ちゃんにモノマネを披露してみたんだけど、大ウケしてよかった。まだ原ちゃんの肩は震えている。

「ここまでウケるなら古橋にも見せてみたいわ。」

「あいつも爆笑すんじゃね?」

私のモノマネに爆笑する古橋を想像してみる。……駄目だめっちゃ怖い。古橋が笑うとか怖すぎて心臓止まるわ。大人しく瀬戸あたりに披露しよう。

「てか本人に見せたらいいじゃん。」

「え?」

「さっきの花宮の前でやってみてよ。」

「やだよ花ぴっぴ怒るもん。」

「何その呼び方面白すぎんだけど。」

「初めて言った。」

花ぴっぴ、我ながらなかなかのネーミングセンスだと思う。こんな可愛らしい名前からあんなゲス想像出来ない。

「明日からあいつのこと花ぴっぴって呼ぶわ。」

「まじで。勇者だね。」

「命名者名字って紹介するけど。」

「やめて!」

「えー? やめてください、でしょ?」

ニヤニヤと原ちゃんが笑ってそう言う。くそ、またドSスイッチ入ったな。原ちゃんと話してるとたまにドSスイッチが入るから困る。しかも入るきっかけがいまいちよく分からない。

「…ヤメテクダサイ。」

「それでよし。」

「……くそー!」

悔しいから、日誌の今日の出来事欄に「原くんがいじわるします」と書いてやった。

「なんで書くの。」

「事実だもーん。」

「じゃあ俺も、」

原ちゃんがシャーペンを握って、私の文字の下になにかを書きはじめた。なになに…

「『名字さんがブサイクです』…ってなにこれ!」

「だって事実だもーん。」

「消す!」

慌てて消しゴムでその文とあとついでに私が書いた文を消した。原ちゃんは目の前でケラケラと笑っている。くそう……! ブサイクって…ブサイクって…。

「何落ち込んでんの。」

「ブサイクって言われて傷ついた。」

「大丈夫だって、自信もって。」

「原ちゃん…!」

原ちゃんが励ましてくれて思わず感動する。いや、落ち込んでた原因も原ちゃんなんだけど。誤魔化されるな私。

「名字はブサイクじゃなくてあれだよ、ぶさかわ。」

「結局ブサイク!? あ、でも可愛いって思っ、」

「ぶさいくでかわいそう。」

「なんだそれ!!」

原ちゃんはとことん上げて落とすのが上手い。かわいそうって…お前…てっきり可愛いの略かと思うじゃん。

「すっごい表情。」

「とても辛い。」

「でも俺お前のこと好きだよ。」

「え、まじで? いえーい!」

「変顔やめなよ。」

「喜んでるの! これ笑顔!」


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