「桜井は細いよね。」 「…どうしたんですか急に。」 今は2人っきりの体育館。 せっかく恋人同士になったし? と思った私は、桜井の部活を見学しに来た。そしてバスケをする桜井をばっちり見て、今は居残り練習に付き合っている。付き合っていると言っても、桜井が放ったボールをゴールの下で拾っているだけなんだけど。 「背は結構あるのに、線が細い。」 「そんなことないですけど。」 リングをくぐって落ちてきたボールを拾い、桜井に投げ渡す。それを受け取った桜井は、少しムッとした顔でそう答えた。 「いや、だって細くない? お肉食べてる?」 「食べてますよ。」 そう言って桜井は構えてボールを投げた。バスケットボールって結構重いのに、よくもまああんなに軽々しく投げられるものだ。そこは男の力というものなんだろうか。 投げられたボールはいとも簡単にリングをくぐった。 「名前さん。」 「ん?」 ボールを目で負っていたら、いつのまにか目の前に桜井がいた。 かと思えば、頭の横に手がつかれる。肘が、頭の横にあった。 「は、」 私の体に影が落ちる。言わずもがな、それは桜井のもので。……待って、これは俗に言う、壁ドンというやつでは。 少し上を向けば、口を尖らせる桜井が見えた。女子か。じゃなくて。 「…僕のこと、細いって言いますけど、」 「は、」 「名前さんより力も強いし、」 すると、纏っていた雰囲気が変わった。近かった距離がより近くなる。後ずさりしようにも、後ろにはもう壁しかなかった。 「…こうやって、押さえ込むことも出来るんですよ。」 そう、耳元で囁かれた。声が直接脳に響くような感覚に陥って、背中がぞくりとした。思わず奥歯をかみしめてしまう。う、わ、なに、 「…なんて、冗談ですけどね。」 そう言って桜井は私から離れた。その姿に、さっきまで感じていた色気はない。…いつもの桜井だ。 「な、にすんの。」 「だって、名前さん可愛いんですもん。」 「馬鹿! …嫌い。」 「知ってますよ。」 桜井は笑ってそう言った。 そうやって私の嘘をすぐ見抜くとこも、嫌いだ。 ← 戻る |