臆病に恋を重ねて


私は昔から、運が良かった。商店街のくじ引きで北海道旅行をあてたこともあるし、懸賞はがきは大抵欲しいものがあたる。
そんなくじ運のいい私だが、なんとこの間、とあるラノベキャラのフィギュアあてたのだ。そのフィギュアは100体限定生産らしく、試しにオークションをのぞいて見たらものすごい値段がついていた。ただ惜しむらくはそのキャラが私の推しキャラじゃなかったということだ。つまり、手放してしまっても全然構わない。

私は昔から、オタクだった。アニメやラノベが好きだし、それつながりでの友達も何人かいる。もちろん普通の友達もいるが、オタクの友達の方が趣味が一緒という分気兼ねなく話せた。男女問わずに。
なので普通の友達相手になら遠慮するような頼みも、オタク友達なら気安く出来たりする。

私は昔から、ときめいたことがなかった。漫画やドラマで甘い台詞を見てもなんとも感じなかったし、共感なんてしなかった。だけど私も腐っても女子高生だ。漫画みたいなことされてキュンとかしてみたい。胸を高鳴らせてみたい。
例えば、最近はやりの壁ドンとか。あれは実際されてみたらどうなんだろう。私でもときめくんだろうか、うん気になる。どうせされるなら高身長な人にされてみたいなあとも思う。180ぐらいはほしいかな。

「というわけなんだけど黛。」

「……。」

「ここから導き出される結論は?」

以上のような私の語りを、目の前にいる黛は黙って聞いていた。ここは放課後の教室。お互い日直なので、日直の仕事をこなしながら私たちは話をしていた。

ちなみに、この間当たったフィギュアは黛の推しキャラである。そして、黛はラノベつながりでできたいわゆるオタクの友達だ。さらに、黛は身長が180を超えている。

ここから導き出される結論はただひとつ。

「フィギュアあげるから壁ドンして。」

「…何言ってんだお前。」

黛は眉間にシワを寄せたしかめっ面でそう言った。まあそういう顔にもなるだろう。私だって逆の立場ならそう言ってる。でもここは引き下がるわけにはいかない。

「やってくれないの。」

「やりたくねーよ。」

「このフィギュアオークションで10万で売られてたんだけどなあ。」

「……。」

「壁ドンやってくれるならタダであげてもいいんだけどなあ。」

「……。」

「どうしようかなあ。」

「チッ、…………やればいいんだろ。」

「そうこなくっちゃ!」

イエイ! と親指をたてて言えば、黛はため息をつきながら前髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。そしてなにか考えるように、俯いておでこに手を当てる。

「どうしたの。」

「…いや、なんでもない。」

いつもの無表情で顔をあげた黛は、やんならさっさとやるぞ、と言って席を立った。私も立ち上がり壁へと歩みを進める黛の後を追う。

「じゃあ、どうぞ。」

「……。」

壁に背中を軽くつけて黛を見上げる。黛の顔は相変わらず無表情だった。

トン、と軽い音がして頭の左横に黛の手がついた。そのまま肘を曲げるようにして、黛の顔が近づいてくる。私はそんな黛の顔をただ黙って見つめていた。黛の表情も変わらない。ただ、距離が近づいてくるだけだ。
私も黛も無表情だし、傍から見ればずいぶんシュールな光景なんだろうなと頭の片隅で思った。

黛の肘が完全に壁につき、黛は私に覆いかぶさるような姿勢になった。黛の口が私の目のあたりにあって、吐息を少し感じる。くすぐったいような、変な感覚だった。
ほお、壁ドンとはこういうものなのか、と思った矢先。

「わ、っ…!」

これ以上は縮まらない、そう思っていたのに黛はさらに距離を詰めてきた。黛の顔は私の頭の隣にまで行き、目元で感じていた吐息を今は耳で感じる。ほんの少しの刺激なのに、受けるのが耳になった瞬間、敏感に感じるようになってしまった。
微かな吐息が耳にかかる度、ぞくぞくと背中の毛が逆立つような感覚に陥る。

「ま、黛…、」

横目を使って黛の顔を見ようとするが、あまりにも距離が近くてうまく見えなかった。灰色の髪が頬にかかって、くすぐったい。


「……名前。」


耳元で囁かれた自分の名に、時間が止まった。


「……う、」

「……。」

「うわあああ!!」

「っ! なんだよ!」

思わず大声で叫んでしまった。
その声に驚いたのか黛は私から離れてしまう。しかし私にはそれを気にしている余裕がない。両手で顔を抑えて悶えるのに必死なのだ。

「ときめいた! 超ときめいた!!」

「……そうかよ。」

私は赤くなった顔を抑えて叫ぶ。う、うわあああ! やばい! やばいめっちゃキュンとした! やばい壁ドンやばい! これはキュンキュンする!!

「ありがとね黛! 楽しかった!」

そう言って黛の背を軽く叩くと、黛は私から顔をそらした。

「フィギュア忘れんなよ。」

「もちろん!」

「……あと、もうフィギュアとかなくていいから。」

「え? なんか言った?」

「なんでもない。」

「?」


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リクエスト消化遅くなりすいません! 実は黛は夢主のことが好きっていう設定でした。分かりにくくてすいません。黛はなにしても無表情なのがいいですよね! そこにときめきます。素敵なリクエストくださった吉竹様、ありがとうございました。ぜひこれからもよろしくお願いします!


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