小さな恋の夜明け


私と火神は仲がいい。火神とは高校で出会い、最初にあった授業の班わけで同じ班になった。
女にしてはちょっと雑な考えの私と同じくがさつな火神は結構気が合い、すぐに仲良くなった。

最近、そんな火神からよく視線を感じる。授業中だったり、体育の時だったり、休み時間だったりと結構な頻度でだ。視線を感じて振り向けば、火神が私をガン見しているのだから最初はかなり驚いた。そしてそのまま目をそらすのもおかしい気がして、見つめ返せばしばらくしてあちらから視線を外してくる。一体なんなんだろう。

不思議には思っていたが、わざわざ本人に聞くほどでもないと思いスルーしていた。そしたら、

「お前、俺のこと好きだろ。」

「へ?」

何故かこんなことになった。

ここは放課後の教室。授業がすべて終わり帰る準備をしていたら、火神にちょっと残ってくれと言われた。ので他に人がいなくなるまで残っていたら、このざまだ。なんだなんだ、急になんだ。

「…なんで?」

「だってお前、俺のことずっと見てくんじゃねえか。」

「え。」

「すげえ目合うし。」

「…いやいや、」

「でもわりい、俺よくそういうのよくわか、」

「ちょっと待て!」

私は慌てて、手を火神の前に出した。火神はぐっと口を閉じ、黙り込む。しかしその顔は不満げだ。なんでだよ。てか待て、ちょっと待て、なんで私が振られようとしてるんだ。
私は軽くため息をついてから、口を開いた。

「…火神さあ。」

「なんだよ。」

「見てくるのはあんたじゃん。」

「……は?」

「だから先に見てくるの、そっち。私が火神を見てるんじゃなくて火神が私を見てるの。」

わかる? と聞けば、火神は目を丸くして驚いていた。嘘だろ、あんなに見てきておいて自覚なしだと? しかも私が火神を見てると勘違いしていたとか。え、まじかこいつ。

「てかその考え方でいくとさあ、火神が私のこと好きなんじゃないの?」

なんちゃって、と笑って続けようとしたが、なにやら火神の様子がおかしくて、言えなかった。火神は下を向いてぶるぶると震えている。え、どうしたの? まさか怒ったとか?
顔を見ようと下から覗き込めば、がばっと火神が顔をあげた。あ、と思った瞬間、火神が吠えた。

「そ、んなわけねえだろ!!」

「え、ごめん。」

「それゃお前のことは嫌いじゃねえけど! 話しやすいし一緒にいて楽しいし、もっと側にいたいとか思うけど! 笑った顔とか超可愛いし守ってやりてえって思、ってああああああああ!! ちげえ!!」

「えっ。」

「なし!今のなし!!」

「えっ。」

「くそっ!!!」

あげられた顔は頬から耳まで真っ赤だった。私の反応はすべて無視して、吠えるだけ吠えたかと思えば、火神はそのまま教室の外へとピューっと走り去っていった。
そこでふと我に返って、慌てて廊下を覗くがそこにはもう火神の姿はなくて。

…なにこれ、あいつ1人で騒ぐだけ騒いでどっか行ったんだけど。これ、私どうしたらいいの。てかまず、告白…されたのか?


次の日、火神に昨日のことを聞こうとすれば、ものすごく無視された。かと思えばいつも通り視線を感じる。なので振り向けば思いっきり目をそらされた。え、ええええ。ど、どっちだよ。
そして次の日もそのまた次の日も無視された。火神わかり易すぎてびっくりだわ。てかどうしよう。


「火神くんとなにかあったんですか。」

「うわっ…!」

後ろから急に声かけられて思わず声が出た。驚きつつも振り向けば、そこにいるのは黒子だった。

「なんだ…黒子か。」

「驚かせてしまってすいません。」

全く悪びれていない表情で、黒子はそう言った。

「で、名字さん、火神くんになにかしたんですか?」

「私がなにかした前提?」

「最近、火神くんが名字さんのことすごく見てるので、そのことを指摘したんですが、真っ赤になって怒られました。」

「あー…。」

心当たりはすごくある。
あの事を話すかどうか少し悩んだが、黒子は冷静だしなにかいいアドバイスをくれるかもしれない。そう思って私は口を開いた。

「通り魔的告白された。」

「え?」

そしてあの日のことを全て黒子に話す。話している途中で黒子が真顔で噴き出してびっくりした。

「…可愛いですね火神くん。」

「声震えてるよ黒子。」

肩も震えてるし、いくら無表情でも笑いをこらえきれていないのが丸わかりだ。

「とりあえず、火神くんをどうにかしてあげてくださいね。」

「どうしろと…。」

「まあ僕に任せてください。」

そう言って黒子は微笑んだ。…この顔はなにか企んでいる顔だな。



あの後、放課後教室で待っていてください、と黒子に言われたので1人教室で待っていた。すると、扉の開く音が聞こえた。

「ん? …あ、火神。」

「は…? 名字?!」

そこにいたのは火神だった。私の顔を見て驚いたように目を丸くしている。かと思えば、声を振り絞った。

「黒子っ…! あのやろ!」

その言葉を聞いて私はすべてを察する。というか、やっぱり黒子のせいか。ここに火神を送り込んだのはおそらく黒子だろう。てか今部活中だろ。どうやって抜け出させたんだよ。

「くそっ!」

「あ、待って火神!」

教室を飛び出しそうとする火神の制服の裾を慌ててつかんだ。その瞬間、火神の動きがとまる。ゆっくりと振り向かれたその顔は、真っ赤に染まっていた。

「な、なんだよ、」

「この間のこと、聞きたい。」

そんな火神の目をじっと見て言えば、火神はあちらこちらに視線を動かしたあと、下を向いてガシガシと頭をかいた。あーとかうーとか言葉にならない声を漏らしながら。
そして観念したように顔をあげる。

「…俺って、名字のこと好きなのか?」

「それ名字に聞く?」

おかしい、それはおかしいよ火神。そう突っ込もうとしたのだが火神の目が真剣だったのでやめた。てか、なんで自分で把握出来てないの。お前の感情だろ。

「自分じゃわかんねえから、お前が判断してくれ。」

「え、ええー…。」

そんな勝手に火神の感情を決めつけていいのだろうか。
そう思ったけど、あの日通り魔的告白をされた時の言葉や、視線を感じる頻度を増したこと、そした目が会いそうになった瞬間顔を真っ赤にして逸らされたりとか、黒子から聞いた話、それら全て判断させてもらうと、つまり、

「…好きなんじゃない?」

たぶん、と心の中で付け足してそう言った。自分で、私のこと好きなんでしょなんて言うのはとても恥ずかしい。なんだこれ、新手の羞恥プレイか。
火神は、そうか、と言ってもともと赤かった顔を更に赤くして俯いた。…照れたいのは私のほうだよ。

「で、…俺はどうしたらいいんだ。」

「自分で考えなよ。」

絞り出すように小さな声でいう火神に、私はそう言った。これ以上、私から言わせないでほしい。

「…火神の思ったこと、言っていいから。」

小さくそう付け足した。すると火神はうぐ、と喉を鳴らして、そして俯いていた顔を少しあげた。それにより私としっかり目線が合う。あ、久々に目が合ったな、と心のどこかで思った。そして今逸らしてはいけないと感じ、私もその目をしっかりと見つめ返した。

「お前のこと好きなんだけど、」

「…うん。」

「……良かったら、」


その後に続くであろう言葉に、私はなんて返そうか。

「…付き合ってくんねえか。」

まあ断るなんてこと、可笑しいぐらいに想像出来ないのだけど。



――――――――――

なんやかんやで火神の話を書くのは初めてでした。恋に疎い火神は可愛い(確信) 書いていてとても楽しかったです。また中編とかで火神の話を書けたらいいな…。リクエストくださった田中様、ありがとうございました〜!


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