今日は週末の日の夜。私はお風呂からあがり、濡れた髪をドライヤーで乾かしていた。 千尋との同棲生活も1ヶ月を越え、最初は朝起きてから夜眠るまで千尋が傍にいることに違和感を感じていたが、最近ではもう随分と慣れてきた。甘えてくる千尋を見れる頻度がかなり高くなったので、本当に同棲を初めて良かったなあと思う。うん、毎日すごく癒されている。 カチャ、と扉の開く音が聞こえて後ろを振り向けば、そこには髪を濡らした千尋がいた。どうやらお風呂からあがったみたいだ。同棲して気づいたことなのだが、千尋は結構はや風呂である。 「…眠いから、もう寝る。」 「え?」 眠そうに目をこする千尋を見て、思わず聞き返した。 「いやいや、髪びしょびしょじゃん。先乾かしなよ。」 そう言って私は使い終わったドライヤー差し出した。千尋の髪は水が滴るぐらい濡れていて、この状態で寝たら確実に風邪をひくと思う。 「…無理、眠い。」 「風邪ひくよ。」 「じゃあ乾かして。」 「は?」 それで、とドライヤーを指さしながら言う千尋に少し戸惑ってしまった。え、乾かす? 私が? 「よろしく。」 千尋はおぼつかない足でふらふらとこちらにやってきたかと思えば、すとんとソファの前に腰を下ろした。もう半分寝ていて寝ぼけているのか、何故か正座をしている。…可愛い。 「…小さい子じゃないんだから。」 とかいいつつやってあげる私は本当に千尋に甘いと思う。 私はドライヤーを持ったままソファへと腰かけ、足のあいだに千尋が来るようにした。ちょうど胸の下ぐらいに千尋の頭がある。うん、これなら乾かしやすい。当の千尋はうとうとと眠そうだった。後ろから見ると頭だけが左右にゆらゆら揺れている。少し面白い。 「はい乾かすよ〜。」 そう声をかけてからドライヤーのスイッチを入れ、タオルを使って乾かしていく。ブォーとドライヤーの音だけが部屋に響いた。千尋は温かい風が気持ちいいのか、目を少し細めてされるがままにされている。その姿を見て、なんか猫みたいだなあと頭の片隅で思った。 それにしても、こうやって髪を乾してあげるのは初めてだ。前も同じようなことを思ったけど、千尋の髪はツヤツヤとしていて触り心地が良い。女子が羨むレベルだ。そんなことを考えながら、何度も何度も髪の間に指を通して風を送り込んだ。 そしてある程度乾いてきたところで、ドライヤーを弱めて指を左右に動かししっかりと乾かしてあげる。ここでちゃんとし乾かさないと、生乾きになって寝癖の原因になるからだ。耳の上やうなじも、指を使って丁寧に乾かした。 …なんかいいなあ、こういうの。やっていてすごく楽しい。まるで飼い猫の世話をしているみたいだ。風にあたるたびサラサラとなびく髪を見て、そう思った。 「千尋、終わったよ。」 ぺし、と頭を軽く叩いてドライヤーのスイッチを切った。任務完了だ。 「もう寝ていいから。」 そう言ったが、千尋からの返事はなかった。 …そう言えば、乾かしている途中から反応がなくなったのを思い出す。あれ? まさか、座りながら寝た? 「千尋? 」 起きているか確認しようとそう声をかければ、千尋はゆっくりと振り返った。なんだ、起きてるじゃん。そう思ったのだが、 「……。」 「…ん?」 千尋は、先ほどの眠そうな様子からは打って変わって、何故か少し熱を孕んだ目をしていた。そんな千尋と目が合って、少し戸惑う。 「ど、うしたの?」 「…指。」 ぼそり、と小さな声で千尋が呟いた。え? 指? 「お前の指が、」 「うん。」 「気持ちよくて、」 「うん。」 「…興奮した。」 「……うん?!」 思わず聞き返した私を無視して、千尋はソファに手を置いた。そのまま身をずいっと乗り出して私に迫ってくる。その目は相変わらず熱を持っていて、…っていやいやいや、 「眠いんじゃなかったの。」 「すっかり覚めた。」 「せっかく乾かしたのに、」 「手つきがエロいのが悪い。」 「私のせい!?」 そんな会話の間にも、じりじりと距離は詰められていて。思わず後ずさったが、千尋はそんなものお構いなしにと迫ってくる。 背中が、ソファの背もたれに触れた。 「ちょ、…本気?」 「本気。」 千尋の手が私の頬へと添えられる。髪を乾かしただけなのに、まさかこんなことになるなんて。と近づいてくる顔を見ながらそう思った。 ← 戻る |