その力がずるいの


あれからインターハイとやらに向けて部活が忙しくなり、赤司先輩には私と勝負する時間がないらしい。ということをこたちゃんが教えてくれた。
私は再び再戦に行くつもりだったので、そのことを知って少し困っていた。さあどうしよう、じゃあいつになったらリベンジできるんだ、と唸っていたらこたちゃんに「寮に来ればよくね?」と言われて目が飛び出るかと思った。天才か。なるほど、その案があった!

女子寮は男子禁制だが、男子寮は消灯時刻までなら女子の立ち入りが可能である。つまり、私が赤司先輩の部屋に殴り込みに行くのもたやすいってわけだ。
そうと決まれば話は早い。早速、今日の夜にでも乗り込もう。


「それでいきなり俺の部屋に来たのか。」

時刻は夜8時。こたちゃんに教えてもらった赤司先輩の部屋をなんとか探し当て、勢いよくノックをすれば中から赤司先輩が出てきた。制服じゃなくてラフな服装をしていて、おまけに風呂上がりらしく髪は少し濡れていてちょっと新鮮だ。

赤司先輩は私を見た瞬間、あからさまに迷惑そうな顔をした。何その顔つらい。廊下からなんで赤司の部屋に女子がとか聞こえてきたがまあ無視だ。今はそんなこと気にしてる場合じゃない。

「君には常識がないのか。」

「ありますよ。」

失礼な言い分である。
今時間平気ですか? と聞けば相変わらずむすっとした表情で平気だけどと返ってきた。うん、なら大丈夫だな。

私は鞄から持ってきたマイ将棋盤とマイオセロ盤を出して、それらを見せながら今日はオセロが先でいいですよと挑発的に言った。もちろんこの挑発はわざとだ。赤司先輩を乗り気にさせるための作戦なのだ。
すると赤司先輩はさっきまでの不満気な顔とはうって変わって、好戦的な様子でいいだろうと答えてくれた。よし、作戦成功!

そして、赤司先輩は私を部屋に上げてくれた。ぱっと見た感じではシンプルで物の少ない部屋だ。真ん中には机がありその前に座るよう促された。お言葉に甘えてそこに座れば、赤司先輩は私の向かい側に腰を下ろす。
私はオセロ盤を広げて石を4つ、中心に置いた。

「じゃあ、始めましょうか。」

「ああ。」




今回、私はある作戦をたてていた。

「はい、…これで私の勝ちです。」

パチパチパチと白の石を黒へひっくり返していきながらそう言った。これで、すべての石を打ち終わったことになる。
目の前の盤を見て、赤司先輩は舌打ちをした。その眉間には何本もしわがよっていて、私は溢れる笑みを抑えずにはいられなかった。ふふふ。

そう、オセロ盤の上は、真っ黒だった。

私が赤司先輩に将棋で勝つためにたてた作戦。それは先にオセロで完全勝利して赤司先輩を動揺させ、その隙をついて将棋で勝つという作戦だ。せこいなんて言わせない、勝つためならなんでもするもん。
これをするためだけに、勝手知ったるオセロをわざわざ特訓してきたのだ。そして、その特訓の成果は存分に表れてた。完膚なきまでの圧勝。

「………もう一回だ。」

「赤司先輩、順番は前もその前も揉めたから、今回は平等に一回ずつしませんか?」

「…わかった。」

にこ、と効果音のつきそうな笑顔で1回ずつの試合を提案すれば、赤司先輩は渋々といったように受け入れた。よし、今がチャンスだ。赤司先輩がショックを受けているこの隙をついていこう。

うん、今度こそ勝つ…!




「俺の勝ちだな。」

「………まじですか。」

勝敗の決着は、あっという間についた。
完敗だ、完敗したのだ。なんか10手ぐらいで詰まれたんだけど、え。ありえなく無いですか何このスピード感。
ぎりぎりと歯をくいしばりながら赤司先輩をにらめば、やられっぱなしは癪だからねと言われた。くそ、仕返しってわけか。

「次はオセロだな。」

「……私、白でいいですか。真っ白にしてやります。」

「上等だ。」

赤司先輩は笑ってそう言った。

結局消灯時間までやり続けたのだが、圧勝と完敗を繰り返しただけだった。…どうやったら将棋でこの人に勝てるんだろう。


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