人魚のような魅力


ウィンターカップも終わり、誠凛バスケ部は今日はオフだった。マネージャーである私も久々の休みを満喫すべく、街までショッピングに来ていた。

買いたいものも買い終え、さあ帰ろうかと思ったその時。

「(あれは…。)」

信号が青になっているのにも関わらず、横断歩道の手前でスマホを片手に立ち止まっている人がいた。そして、その顔には見覚えがあった。
切れ長の目に、わけられた前髪。確か海常の…森山さんだっけ。海常は神奈川にあるのにどうして東京にいるんだろう。

森山さんはスマホを見ながら首をかしげたりあたりを見渡したりしていて、どうやら道に迷っているみたいだ。…一応顔見知りだし、放っておくのもなあ。

勘違いじゃありませんように、と思いながら恐る恐る声をかけてみる。

「あの…森山さん?」

「…え、あ、君は、」

確か誠凛の、と少し驚いた顔で森山さんは続けた。

「はい、2年マネージャーの名字名前です。」

「ああ、そうだった。」

「森山さんはどうしてここに?」

「大学を見にきたんだけど…。」

大学、そう言われてピンと来た。
そうだ、うちの高校には3年生がいないからあまり意識していなかったけど、この間センターが終わったんだった。森山さんは受験生だし、東京にはたくさん大学があるから見学にここまで来ていてもなんらおかしくはない。

「大学を探しているのですか?」

「うん、でも迷っちゃって。」

情けないことにねと言って森山さんは眉を下げて笑った。イケメンの困り顔はずるい。なんとかしてあげたいと思ってしまう。

ちょっといいですか、と少し顔を近づけてスマホの画面を見せてもらう。するとなんということでしょう、地図が示している大学はここから私の家までの帰り道にあった。うん、たしかにここに行くまでの道はわかりにくい。慣れない人は迷って当然だろう。…うーん、

「…あの、よろしければここまで案内しましょうか。」

「えっ、」

「私の家に結構近いんで。」

「…いいの?」

「はい、私の用事もさっき終わりましたし。」

ここで会ったのもなにかの縁でしょう?と笑いながら言えば、森山さんは一瞬きょとんという顔をしたけどすぐに笑顔になって、じゃあお願いしようかなと言った。うわあ、笑うとすごいイケメンだ。もちろん普通にしてもイケメンだけど。下心とかはないけどちょっと役得だな。

「じゃあ、行きましょうか。」

「…それにしても、」

歩きだそうとした私の背を見て森山さんが口を開いた。そして突然頬を染めて何かを語りだそうとしている。
それを見て、何故かはわからないけど嫌な予感を感じた。

「この広い東京で俺達が出会える確率ってどのくらいなんだろうね。しかも俺が迷っている時に、君みたいな美しい女性が助けてくれる確率なんて微々たるものだろう。そんな確率をくぐり抜けて出会えた俺達は、そう、まさしく運」

「行きましょう!はやく!!」

私は声を張り上げて慌てて遮った。
…この人も伊月くんと同じで残念なイケメンか。



大学までの道のりは、お互いバスケ部ということでバスケの話で盛り上がった。森山さんは話上手でよくこんなにも面白い話ができるなと笑いながら感心した。
あと、私の買い物の荷物も持ってくれている。結構重たいし遠慮はしたのたが、案内してもらうお礼だよとウインクしながら言われたらお願いするしかなかった。イケメンだ。

「着きましたよ。」

楽しい時間はあっという間にすぎるもので。私たちはすぐに大学の正門に着いた。
ほう、と言いながら森山さんは大学を見上げている。

もう大丈夫かな、と思い声をかけてお別れしようと思ったのだが、

「よければ連絡先を教えてくれないか。」

「えっ。」

笑顔の森山さんによってそれは阻まれた。

「俺はこの大学が第一志望なんだ。」

「はあ、」

「君の家はここに近いんだろう?」

「はい。」

「ということは、ここに受かれば毎朝君に会えるかもしれない。」

「まあそうですね。」

「だから、」

ここで森山さんは言葉を止めて、私の手をギュッと握ってきた。さすがにこれには驚く。

「受かったら連絡するよ。」

「は、はあ…。」

こういう時、どういう顔をするのが正解なんだろう。受験前にナンパなんてアクティブだなこの人、と思ったが森山さんは至って真剣な顔をしている。

「せめてラインだけでも教えてくれないか。」

私は少し考える。
…まあ、ラインならいいか。森山さん悪い人じゃなさそうだし、うん。

「いいですよ。」

「本当!」

森山さんは私の言葉を受けて、目をキラキラ輝かせながら鞄からスマホを取り出す。嬉しいな、と言うその顔は本当に嬉しそうだ。そんな表情をされると私までどこか嬉しくなる。でも、

「よし!じゃあ君のために是非とも合格を掴み取る!」

「…いや、自分のために頑張ってくださいよ。」

天を仰ぎ拳を握りしめながら言う森山さんに、思わず冷静なツッコミを入れてしまった。
…変わった人と知り合いになったなあ。



あれから、森山さんからは毎日のようにラインが送られてくる。マメな人だ。
てか再来週入試じゃなかったっけ…大丈夫なのかこの人。

とはいえ、話上手は文字でも同じみたいで。森山さんから送られてくるラインは面白くてやり取りをしていて苦じゃなく、むしろかなり楽しかった。


「名字って最近、よく携帯見てるよな。」

目の前にいる伊月くんが、ふとそう言った。
伊月くんとは同じクラスで今日は2人で日直の日だった。放課後である今、向かい合ってせっせと日誌を書いている。

「…うん、ちょっとね。」

「?」

私の言葉に首をかしげる伊月くんはかなり可愛い。これでダジャレさえなければ完璧なのになあ…森山さんも伊月くんも残念なイケメンすぎる。

私にはもちろん、最近よく携帯を見てるという自覚があった。原因は言わずもがな頻繁に送られてくる森山さんからのラインだ。
同じバスケ部の人だし話も通じるだろう。そう思って伊月くんにこの間の森山さんとの話をした。

「ってわけで、結構ラインしてるんだよね…って、伊月くん?」

話が終わった時、伊月くんは目を見開いて驚いていた。な、なんだその反応は。
そう思った瞬間伊月くんに肩をつかまれた。

「れ、連絡先交換したのか…?!」

「う、うん。」

「しかも毎日ライン?!」

伊月くんの突然の大声にびっくりしていると、肩におかれた手が離されて伊月くんは片手で顔を覆った。そのままなにかを考える素振りを見せる。どうしたんだろう。

「…名字。」

「なに?」

「ラインをしよう。」

「え?」

「俺ともラインをしよう。」

森山さんと出来て俺と出来ない理由はないよな?と伊月くんは続けた。手が離れてから見えた伊月くんの表情は真剣…というか若干鬼気迫るものを感じる。こ、こわい。

「でも、伊月くんとは毎日会ってるし…。」

「いいよな?」

「クラスでも部活でもよく喋るからラインなんてしなくても…。」

「いいよな?」

「……う、うん。」

結局、押しに負けた。


「(…なんかダジャレばっか送られてきそうだな。)」

「(他校か…迂闊だった。)」


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今までスマートに周りに牽制を入れていたけど他校という未知の脅威が出てきた瞬間泥臭い手段に出る伊月とかね、いいですよね。実際このあと森山が合格して毎朝夢主に会ったりそれを知った伊月が焦ってアピールしまくるといいと思います。素敵なリクエストをくださったコロ様有難うございます!


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