「おい、今日夜暇か。」 「え、急になに。」 「暇だな。」 「いや別」 「花火大会行くぞ。」 「は?」 「6時に駅前な。」 「あの、」 うちの主将はいつだって突然だ。 そんな感じで部活が終わったあと、何故か花宮に花火大会に誘われた。しかも今日の夜あるやつに。なんだあいつ、横暴にもほどあるわ。 とか言いつつも、現在時刻は6時。私はちゃんと駅前に来ていた。 いや、だって、花宮に逆らうとか無理でしょ。花宮はよく私を色々なところに誘ってくるが大体が突然だ。なんでだ、謎すぎる。 携帯をいじりつつ時間を潰していたら、後ろから声をかけられる。振り向くとそこには花宮がいた。何度も見ているとはいえ、やっぱり私服の花宮はどこか新鮮だ。 「やっほ、花宮。」 「チッ、…なんで浴衣じゃねえんだよ。」 「舌打ち?」 花宮の言う通り、私は浴衣ではなく普通の動きやすい私服を着ていた。そして、確かに周りにいる女の子は浴衣が多い。 でもね花宮、聞いて。あんたが私を誘ったのは今日の昼、ついさっきでしょ。人間そんないきなり浴衣は準備できないから。あーゆーおっけー? しゃあねえな、と花宮は呟いているけどなにが仕方ないのかちょっとよくわからない。 「さっさと行くぞ。」 「え、ちょ、花宮足はやっ!」 花宮はそのままスタスタと先を歩いていく。私はそれに続こうと思ったが、足の長さの違いもありどうしても距離が開く。 私はそんな花宮の背中を小走りで追いかけた。こいつからの配慮とかは決して求めてはいけないのだ。絶対ないから。 花火が打ち上がるまでには少し時間があり、私は花宮と屋台を見て回った。焼きそばを食べたりイカ焼きを食べたりわたあめを食べたりしてたのだが、豚になったら解体すんぞと花宮に言われて背筋が凍った。やりかねない。 そしてある程度屋台を楽しみ、あとは花火を見るだけとなったのだが、 「なんてこった。」 花宮とはぐれてしまった。 うわあ、絶対花宮怒るヤツじゃんこれ。でもまあこれは人ごみのせいだし仕方なくない? 私のせいじゃなくない? 電話したらすぐ合流できる大丈夫だよね! そう思ってた時期が私にもありました。 なんと私、人波に揉まれたせいで足をくじいています。現在身動きが取れません。 駄目だ、これ殺されるやつだわ。それか、どんくせえなって呆れた目で蔑まれるやつだわ。どちらにしろ地獄。 とりあえず道から少し外れたところで座っている。そして花宮になんて連絡をするか悩みつつ携帯を見ていると、突然着信が入った。相手はもちろん、花宮。 「…もしもし。」 出ないという選択肢もあるが、そんなことをしても花宮の機嫌を損ねるだけなので大人しく出る。 『お前今どこにいんだよ。』 「…金魚すくい屋の横。」 『金魚すくいの屋台なんてなんこもあんだろ。わかんねえよ。』 「私にもわからない。」 『チッ、じゃあ神社で合流な。駅の近くにあるやつ、わかんだろ。』 「…それがですね、花宮さん。」 『あ? なんだよ。』 「足くじいた。」 『はあ?』 電話越しに心底呆れたようなため息が聞こえて、しばらく無言が続いた。何この状態超怖いんですけど。 『…お前一歩も歩けねえのか?』 「いや、ある程度ならいけるけど…。」 『じゃあ神社までさっさと来い。5分以内な。』 「え、それはちょっと無」 『あ?』 「あっハイ、すぐ行きます。」 私がそういった瞬間、電話をきられた。…すごい怖かった。 とにもかくにも神社へ向かわないといけないので、立ち上がってみる。少し痛むが思ったより歩けそうだ。5分以内はだいぶ厳しいところだけど出来るだけはやく行かなければ。 じゃないとこの世の地獄を見ることになる。 「10分遅刻な。」 「うわ、マジで時間はかってた…。」 「あ?」 「なんでもないです。」 神社にいた花宮は、眉をしかめて大変機嫌の悪そうな顔をしていた。神社の前は結構長い階段があって、そこを痛む足を我慢しながら登ってきたのにこの態度とか、ちょっと私可哀想すぎないですか。 やって来た神社は小さいもので、人はまばらにいた。すぐそこに屋台がたくさんあるのになんでみんなそっち行ってないんだろう。花火だってもうすぐ始ま… 「あ!」 「なんだよ。」 「花火! もう始まる! 行かないと!」 腕時計を確認すれば、花火が打ち上がる時間になっていた。え、やばいやばい。早く花火が見える場所に行かないと、なんのためにここまで来たのかわからなくなる。だけど、 「ここでいいんだよ。」 「え?」 そう言って花宮は動こうとしなかった。なんで? と疑問に思っていたその時、ドオンと花火の音が響いた。あ、始まった。 ほら、ここだと音しか聞こえないでしょ。そう言おうと思ったのだが、 「え、」 目の前の空には、カラフルに輝く花火が広がっていた。ドオン、ドオンと音が鳴る度に大輪の花が咲いていく。 「すごい…。」 「ここな、穴場らしいんだよ。」 見てるやつもすくねえしな、と花宮は付け足す。横を見れば花火に顔を照らされた花宮がこちらを向いていた。 それから私は、次々と打ち上げられる花火をただただ黙って見続けた。 「いやあ、よかったね!」 笑顔でそう言えば花宮はフンと鼻息を鳴らした。 花火も全て打ち終わり、まばらに神社にいた人たちもほとんど帰ってしまった。私たちもそろそろ帰る時間である。 それにしてもこの場所で見るのは良かった、人も少なかったしかなりの穴場だ。こればかりは花宮に感謝している。 「…お前さ。」 「ん?」 「なんとも、思わねえの。」 花宮は突然口を開いた。花火が終わりあたりが暗くなっているせいで顔が翳っている。ので表情は読み取れない。 「なにが?」 「花火。」 「綺麗だと思ったよ?」 「そうじゃなくて。」 「?」 「誘われたこと。」 「急すぎてびっくりした。」 「…はあ。」 「えっ。」 何故かため息をつかれた。え、なに、今私なんかおかしな返事した? 「…まあいい。」 「いや、私にとってはなにもよくな」 「うるせえ。」 「ごめんなさい。」 睨むのよくない、絶対に。 「んなことよりお前、足いけてねえだろ。」 「あ…うん、」 ちなみに足は結構やばい状況だった。というのも花火の途中から急に痛み出して、今では立っているのがやっとという感じだ。 それにしてもバレないように隠してたのによく気づいたな。 「おぶってやるよ。」 「え、」 こいつ何とち狂ったこと言ってんだ?と思ったけど花宮の顔はいたって真剣で。てか私のこと気遣うとか、これ本物の花宮? 「…いいよ。駅前とか人多いから恥ずかしいし。」 「誰がお前みたいな豚をそんなとこまでおぶるかよ。」 「あ、本物だわ。」 「あ?」 「なんでもないです。」 階段だけだバァカ、とそっぽを向きながら花宮は言った。 こんな花宮、珍しくて怖いけど正直この足で階段をくだるのはなかなかきついので大人しくおぶってもらうことにする。 「ほら、」 「…お願いします。」 しゃがみこんだ花宮の背に乗れば、そのまま花宮はすっと立ち上がる。視線がいつもより高くて新鮮だった。そのまま花宮は階段へと歩みを進めていく。 「重いな。」 なにやら聞き捨てならない台詞が聞こえたが、私に気を使っているせいか歩き方が丁寧だったので聞き流すことにした。振動が小さくて、心地いい。 「…なんか花宮、優しすぎて気持ち悪いね。」 「このへん川ねえか。」 「落とす気?! やめて!」 ---------- 好きな子に不器用な優しさを見せる花宮っていいですよね。でも横暴っていう。そして付き合ったら俺様になるっていう。花宮はあの性格だからこそ魅力に溢れてると思います。この話の花宮はただただ浴衣が見たいために花火大会に誘いました。 素敵なリクエストくださったはるみ様、ありがとうございました! ← → 戻る |