逃げられない靴をはいて


※大学生設定。


成人して数ヶ月たったある日、何故か突然飲み会が開かれた。まあうちのサークルではよくあることなんだけども。

会場は虹村の家。虹村は一人暮らしなのでこうやってよく飲み会会場にされている。
ちなみに私と虹村は同級生で同じサークル、大学からの仲にも関わらず気が合いよく一緒にいた。虹村は気さくな奴で話していて楽しい。


「おい、もう名字酔ったのかよ。」

「はえー。」

「大丈夫か?」

「…眠いです。」

飲み会開始から約1時間。私はお酒に弱く、すでに頭がぼーっとしていた。とにかく眠い。眠すぎる。

「起きれるかー?」

「…むりです。」

「まじか。」

「名字って酔うと眠たがるよな。」

「おい、虹村、ベット貸してやれよ。お前ら仲いいだろ。」

「あー、いいっすよ。」

ほら歩けるか、と虹村に肩を貸してもらいベットまで運んでもらう。わーい虹村やっさしーい。ベットだ、ベットだ、寝れる、嬉しい。

ベットに横たわった瞬間、私の意識はなくなった。




突然、はっと目が覚めた。…ん? ここどこだ。
少し考えてここは虹村の家だということに気がつく。そうだ、飲み会中だった。そして飲んで眠くなって虹村にベットまで運んでもらったんだった。

のっそりとベットから降りて、飲み会をしていたリビングへと向かう。途中腕時計を見ればもうすぐ日付が変わるという時間だった。結構寝てたな私。

リビングに行くと飲み会の後かたづけをしている虹村がいた。
…あれ?他のみんなは?

「虹村、」

「…ん? ああ、起きたか。」

「うん起きた、ありがと。みんなは?」

「帰った。」

「え?」

虹村はこちらを見ずにさらっと言った。…帰った?
私はそばにあった酎ハイの缶をゴミ袋に入れながらも話を続ける。

「なんで起こしてくれないの。」

「20回ぐらい起こしたわ。でもお前爆睡してたじゃねーか。」

「まじか。」

責められる筋合いはねえ、と虹村は続けた。な、なんてこった。起こしてくれたのに寝続けるとか、しかも他人のベットで。大変申し訳ないことをした。

「ごめんね…。」

「まあいいけど。お前顔まだ赤いな、帰れそうか?」

「電車使えば平気。」

「…電車あんのか?」

「ちょっと待って。調べてみる。」

スマホのアプリを起動して電車を調べてみる…が、ない。なかった。今からどれだけ急いで虹村の家を出ても終電に間に合わなさそうだ。 お金に余裕があるわけでもないからタクシーは使えない。

「虹村、どうしよう。」

「ん?」

「帰れない。」

「電車なかったのか。」

「なかった。どうしよう。」

「泊まってけばいいだろ。」

「だよね虹村ありがと!じゃあ私もう一眠りして「てめえ最初からそのつもりだったな?!」

「そんなまさか。」




なんやかんやでとまらしてもらうことになったのだが、私は虹村のベットの前で悩んでいた。

さて、私は図々しくもここで寝続けていいのだろうか。ベットを見つめながらそう思う。ここは今から虹村の寝床になるだろうし…やっぱり譲るべきだよな、うん。今まで散々寝こけてただろうというツッコミはなしだ。

そうやって、ベットの前でうんうんと悩んでいると後ろから虹村が来た。

「なにしてんだよ。」

「いや、私どこで寝るべきだろうと思って。」

「ここで寝りゃいいだろ。」

「えっ虹村わざわざ私のために床で寝てくれるのやっさしー。」

「んなわけねえだろ。おらさっさと入って詰めろ。」

「まじで?」

え、もしかして一緒に寝るの? 私たち仮にも男と女だよ…?

……なーんてね。


「お前今更そんなん気にするタマかよ。」

「全く。」

うん、だって虹村だし。虹村は男というより友達感覚が強すぎてぶっちゃけ一緒に寝るのになんの抵抗もない。

じゃあ遠慮なしにとベットに飛び込んだ瞬間、虹村に足で壁際にまで追いやられた。ら、乱暴…!
でもこの行動からわかる通り、多分虹村も私のこと女として見てない。虹村はどっこいしょといいながらベットの空いたスペースに潜り込んできた。掛け声がおっさんだ。

虹村のベットは割と広くて、2人並んで寝ても肩がぶつからないほどだった。いいなこの広さ。

「このベット、広くていいね。」

「ん? そうか?」

「うん。転げ回っても落ちなさそう。」

「こっちに転げ回って来た瞬間蹴り落とすわ。」

「こわ…。」

「電気消すぞ。」

「あ、うん。おやすみ。」

「おう。」

そう言って虹村はリモコンを使って電気を消した。




……トイレ。

急に、トイレに行きたくなって目が覚めた。つけたままの腕時計を目をこらしてみてみれば時刻は午前3時を指している。…結構寝てたな。

私も虹村も、最初にいた位置からほとんど動いていなかった。よかった蹴り落とされてなくて。
思ったよりも寝相のよかった虹村を踏まないようにまたいでベットから降りる。えーっと、トイレはどこだっけ…。

暗闇で手探りで歩きつつもなんとか用を済まして、ベットに戻ってきた。のだが。

「(え、ええ〜…。)」

私が寝ていた場所には何故か虹村の手があった。虹村は綺麗に上を向いて寝ているのだが、右手を横に伸ばして私の寝るスペースを侵している。
なんでだ、私がトイレ行ってる間になにがあった。

「虹村ー、どいてよー。」

そう言って手をどかそうとしたが、動かない。な、なんだこの力強さは…!こいつ本当に寝てんのか? 実は起きてんじゃないのか? 思わずそう疑ってしまうほどの強さだった。

待って、これどうしたらいいの。上から寝るわけにもいかないし縮こまって寝るのもしんどい。縮こまって寝たら腰痛めそうだし。うん、わがままでごめんね。

少し悩んだ末、結局そのまま寝ることにした。だって眠いし。
ごめんねー。と小声でいいつつ横たわれば虹村の手はちょうど私の頭の下にきた。俗に言う腕枕状態だ。
…虹村これ大丈夫かな。手しびれるんじゃないかな。やっぱ起こしてどかしてもらったほうがいいんじゃ、とそう思ったその時、

「っ、!」

私の頭の下にあったはずの手が、何故か右肩に添えられて、急にそのまま虹村の方へと引き寄せられた。え、と思ったがその勢いのまま虹村の胸元へと抱き寄せられる。

「に、虹村…?」

「…。」

返事はなかった。もしかして寝ぼけてる?と思ったが、もしそうならこのままだと朝起きた時にお互い気まずくなる。
慌てて離れようとしたけど、思ったより抱きしめられている力が強くてびくともしない。ほんとに寝てるのこいつ?!

「…名字。」

「!」

突然、虹村が私の名前を呼んだ。
お、起きた…!気まずいとか言っている場合じゃないこれはチャンスだ離してもらおう。

「…虹村、離して。」

「やだ。」

「は!?」

虹村はそう言うと抱きしめる力をより強くした。も、もしかしなくてもこいつまだ酔ってる!?

いくら男として意識してないとはいえ、こういう状況になれば話は別だ。心臓がドキドキと音をたて始めた。だ、駄目だ、早く離れないと。

「に、虹村!」

「…。」

「起きてるなら、離れて、」

そう訴えるが虹村は何も反応しなかった。
てか微動だにしないんだけどこいつ! 話聞いてんのか?! 寝てんのか?!

「、っ!」

「……。」

「ちょ、虹村!」

そう思っていると、突然虹村が足を私の足のあいだに挟んできた。その感触に背筋がぞくりと粟立つ。え、なに、なにがしたいんだ!

「ねえ、ほんと…!」

胸にうずめられている顔をなんとかあげて、虹村の方を見る。すると虹村と目が合った。起きてんじゃん!

「…なに。」

「なに、じゃないから…っ!」

「うるせえ。」

「は、ちょ、…んん!」

その瞬間、後頭部を鷲掴みにされて思いっきり唇を重ねられた。突然の行動に思わず頭が真っ白になる。
…待って、待って、いま、これ、何が起きてるの!

「ふ、…ん、うぅ…!」

息が苦しくなって虹村の胸元を叩けば虹村は口を離してくれた。
だけど、私はそれどころじゃない。待って、なんで私、虹村と、キスしてるの、なんで。

「虹村…。」

「なあ、」

ベタベタになった口元をぬぐって虹村を再び見上げた。虹村の目はどこかギラギラとかがやいている。
私の足のあいだに挟まれた虹村の足が少し動いて、思わず身じろいだ。

「好きなんだけどさ、」

「…え、」

なんともないような声色でそう言われたせいで、口からは間抜けな声が漏れた。

え、…なんて? ……すき?


「いいか?」


虹村はそう言って、指で私の顎をすくい上げた。

なにが? なんて、聞けなかった。



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酔っ払い虹村、という文字列だけでどこか興奮します(突然) 虹村ほんと色気ハンパないですよね、好きです。ガツガツくる虹村ということでちょっとえろい雰囲気を目指したのですが見事に撃沈しました。いつかもっと虹村の色気を表現できるような文を書けるようになりたいです。リクエストくださった真希様、本当にありがとうございます!


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