放課後、私は日直なので1人教室に残って日誌を書いていた。 書き終わってさあ帰ろうと席をたったその時、思わずよろめいてしまった。その勢いのまま宮地くんの机に激突してしまう。…あ、 「ああああ…!」 机は倒れはしなかったが、中から教科書とかバラバラ落ちてきた。ああああやばい殺される。早くなおさないとこれはやばい殺される。 慌てて落ちた教科書を拾っていると、1枚の紙が目に入った。…ん? これって…。 これは確か、明日の朝締切の進路調査の紙だ。しかも白紙。もしかしなくても、書くの忘れてるよねこれ。締切明日の朝だし…届けるべきだよね。うん、このままだと宮地くん怒られるし…うん………… てなわけで体育館に来た。 いや、だって気づいたのに見て見ぬフリして明日宮地くんが怒られたらこっちも嫌な気分になるしね。 体育館に来たのはいいけど、正面から入って注目を浴びるのは嫌だから裏からこっそり入ろうと思う。相変わらずのチキンで申し訳ない。 で、誰か最初にあった人に頼んで宮地くんに渡してもらおう。そうしよう。 体育館の裏に行くためには裏庭を通らないといけないので、裏庭へと向かう。するとそこでは男子たちがたむろしてた。なにか話をしているようだ。 …通るだけだしさっさと通り抜けたら大丈夫だよね。よし、早歩きで行 「名字もよくやるよなー。」 私の名前が聞こえて思わず隠れてしまった。そのままの勢いで、男子たちに見えない位置にしゃがみこむ。 な、なんで私の名前が出るんだ。何これデジャヴ。……悪口とかやめてよね。このままじゃ通れないし聞いちゃったら気まずくなるじゃん。 「なんで?」 「宮地だよ。」 「あー、理解。」 「名字に対してあからさますぎだよな。」 「あいつはやべえ。」 「見ててすげえなって思うわ。」 どうやら宮地くんと私の話みたいだ。うん、そうだね。宮地くんは周りをあまり気にしないから、多分見てる方もびっくりするよね。 でもそうだとしてもちょっとこういう陰口みたいなのは駄目だよ…。 「名字、宮地のこと絶対嫌って思ってるよなー。」 「てかあいつ構われるたび怖がってね?」 「言えてる。」 「迷惑って思ってんならそう言やいいのにな。」 め、迷惑なんかじゃ…! 男子たちの会話を聞いた瞬間、何故か怒りで目眩がした。違う、勝手な事言わないで。そんなこと思ってないし、ほんと、やめて。 頭の中にブワッと今までの宮地くんとの思い出が浮かんでくる。そうだ、違う、迷惑なんかじゃない、違うの、違うから、ほんと! 私は耐えきれなくなって、思わず男子たちの方へ飛び出してしまった。 「そんなこと思ってないから!」 私の叫び声を聞いて、男子たちはポカンという顔をしていた。やめなきゃ、とは思うけどそれでも止まらない。 「は…? 名字?」 「なんでいんの、…てか聞いてた?」 「聞いてた! 宮地くんのこと悪くいうの、やめてよ!」 「いや…悪く言ってたってか…。」 「うん…、事実っていうか…。」 「実際名字も迷惑だろ?」 「違う!」 駄目だ、本当に止まらない。この男子たちは悪くないって分かってるけどそれでも否定したくてたまらない。私は宮地くんのことを迷惑なんて思ってないし、むしろ、私は、宮地くんのことが、 「宮地くんのこと、好きだもん!」 その瞬間、あたりが静まり返った。 何もいおうとしない男子たちを見て、煮えくり返っていた頭の中が冷静になっていく。...待って、ちょっと待って。今、私、………なんて言った? 「って、あっ…宮地。」 「……えっ?」 振り返ると、何故かそこには驚いた顔をして立ちすくむ宮地くんがいて、え、待って、待って、…聞かれてた? 思わずサアアアと血の気がひいていく。 「やべっ。」 「行こーぜ。」 男子たちが慌てた様子で裏庭から出ていこうとする。ちょ、ちょ、待って! 置いてかないで、ってか宮地くんと2人にしないで!!! 結局、無情にも男子たちはこの場を去っていってしまった。あ、ああああ...!! 震える体を抑えつつも恐る恐る後ろを再び振り返ると、宮地くんは顔を片手でおおってうつむいていた。...ん? いつもなら迫ってくるのに、え、なに。 「あ、あの…。」 「……。」 「…聞、いてましたか?」 「……。」 「……宮地くん?」 宮地くんがあまりにも黙りっぱなしだったので、下から顔をのぞき込んでみる。顔は手で覆われていて見えなかったけど、耳が真っ赤になっているのが見えた。…え? な、な、なんで! 「ど、どうして、」 「……休憩入った時、お前が外歩いてるの見えて、休憩時間結構あったし、声かけようと思って、」 「えっと…。」 知りたいのはここにいる理由じゃなくて、いや、そっちも知りたかったけど、今知りたいのはそれじゃなくて……なんでそんなに照れてるのかってことが、知りたい。 「そんでついてきたら、さっきのあれ、聞こえて、」 「…!」 「…あの、さ。」 そこまで言って宮地くんは顔を上げた。その顔は耳と同じぐらい真っ赤に染まっていて、思わず私の顔も熱くなる。 「やっぱ…、好きなんだわ。」 「…う、うん。」 「お前のこと。」 「………うん。」 「だから、」 宮地くんはそこで一息切って、それまで揺らいでいた目線を私に合わせる。 「付き合ってください。」 顔は赤くても、その目は、初めて好きと言われた時のように真っ直ぐで真剣なものだった。 「………私でよければ。」 蚊の鳴くような声しか出なかったけど、それでもちゃんと宮地くんには聞こえたみたいで。嬉しそうに、でも少し照れくさそうにこちらへやって来る宮地くんが見えた。 抱きしめられるまで、あと5秒。 ← → 戻る |