心が捕まった瞬間


あれから午後の授業もそして次の日である今日の午前も宮地くんは相変わらず近かった。

そして今、昼休み。何故か今日も昨日と同じく屋上で昼ごはんを食べている。何故か宮地くんと。何故か肩が触れ合う距離で。何故か宮地くんの学ランを着て。なんなのこれ。どこから突っ込んだらいいの。

「あ、そういえば。」

この状況に疑問を抱きつつも、私はふと、あることを思い出した。てか私だいぶスマートに宮地くんに話しかけられるようになった気がする。好きと言われてから2日、自惚れとは思いつつも宮地くんは私に対してなら滅多なことで怒らないことに気がついた。結構度胸ついてきた気がする。

そんな私の言葉に反応して、宮地くんがパンを食べながらこっちを向いた。…口もぐもぐしてる宮地くん、ちょっと面白いかも。

「あんだよ。」

「宮地くんって明日誕生日だよね。」

そう言うと宮地くんは不意をつかれたような、ポカンとした顔をする。

「知ってた…のか?」

「あ、うん。」

宮地くんの誕生日は11月11日、明日だ。結構前にクラスの男の子が話しているのを聞いたことがある。私は覚えやすすぎるそれをちゃんと覚えていた。うん、ゾロ目、覚えてる。

「なにか欲しいもの、ある?」

「んー…。」

せっかく私のこと好きっていってくれてるんだし、なにか欲しいものがあるならあげたほうがいいよね。決してあげなかったらあとが怖いとかじゃない。決して違う。そんな殺されそうとか思っ……てるねすいませんやっぱちょっと宮地くん怖いです。

宮地くんは私の言葉に驚きつつも、なにかを考える素振りをした。ど、どうか私に用意できるものでありますように。すごい高価なものとかじゃありませんように。用意出来ずに怒られるとか恐ろしすぎる。

「あ、あったわ。」

「な、なに?」

「お前。」

「えっ?!」

あまりにも宮地くんがサラッというものだから思わず聞き返してしまった。え、…え?!ちょっと待って、私?!

「だから、お前。」

真面目な顔をして、宮地くんはもう一度同じことを言った。せ、せっかく宮地くんに慣れてきたと思ったのに、ほ、んとそういうの、ぶっこんでくるのやめて…!!

「あ、あの……ちょ…、え?」

「嘘だばーか。」

そう言って宮地くんは悪戯が成功した子供のように笑った。へ…嘘…?
少し考えて、からかわれただけということに気がつく。な、なんなの!ちょっと本気にしちゃったし。うわ、私今絶対顔赤い。
あたふたと焦っている私を見て、宮地くんはくっくっとのどを鳴らして笑う。…馬鹿にされてる気がする。なんなのほんと。やっぱ苦手だ。

「別に、名字がくれるものならなんでもいい。」

そう言う宮地くんは少し優しい顔をしていた。
……前言撤回、やっぱ苦手じゃない。





どうしようか悩んだけど、結局クッキーを焼いた。そんな凝ったものじゃないけど。いらないもの上げるより消耗品の方がいいかなと思った結果だ。
昨日食べてた菓子パンがチョコパンだったし、宮地くんは甘いものが嫌いではないはず………だよね?もし嫌いだったらどうしよう。


「宮地くん、はいこれ。お誕生日おめでとう。」

11月11日、運命のお昼休み。相変わらず私たちは屋上にいる。今日は一段と冷え込みが強く、屋上にいるのは私たちだけだった。
ちなみに、ばっちりカーディガンを着込んできたおかげで今日は学ランは断ることが出来た。断った時に小さく舌打ちが聞こえたが気のせいだと思い込むことにした。そう思わないと怖くて生きていけない。

宮地くんは少し驚いた顔をして、私が差し出した紙袋を受け取った。

「お口に合わないかも知れませんが…。」

「なにこれ。」

「クッキーです。」

「手作り?」

「うん。」

私の返事を聞いて、宮地くんは目を見開いた。え、何その反応。
……あ!も、もしかして他人の手作り食べられないタイプ?! それはやばい。そんなの手作りクッキーとかもらっても嫌に決まってるじゃん。本当にやばい。とんでもないことをしてしまった。
思わず顔からサッと血の気がひいていく。

のだが。

「え、」

気がつくと視界は黒一色で埋められていた。ワンテンポ遅れてそれが学ランだと気づく。肩から背中に回る腕、私は何故か宮地くんに抱きしめられていて………………ってん? え? なに、ま、だきしめ、…ちょ、え?!

「っ?!!」

声にならない叫び声が口から漏れた。え、な、な、なんで抱きしめられてるの?!! パニックになってる私には触れず宮地くんは私のことをぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。私は宮地くんにすっぽりと埋まっていてその体格差に、一気に全身が熱くなった。う、う、わあ、宮地くん、男の子だ、いや、知ってたけど、知ってたけど、

「………ありがと、嬉しい。」

斜め上から低い声がふってきて、駄目だ、反則だ、これは駄目だ本当に駄目だ。
激しく脈打つ心臓の音が脳内で大反響する。ああ、もう、今にも死んでしまいそうだ。

「なあ、」

「は、はい、」

「…もう少しこのままで、いてくんね?」

「……う、ん。」

私はこっそり宮地くんの学ランの裾をつまんで、そう言った。


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