僕は青い鳥をみつけた


時に昼休み。いつも一緒に食べている友達が休んだせいで、私は1人でお弁当を食べていた。他の子と一緒に食べるという選択肢もあったけどちょっとめんどくさかった。

それにしても今日は教室に人が少ない。なんでも今日は半年に一度購買の全商品が半額になる日らしく、みんな購買に行ってしまったからだ。自分で弁当を作る派な私にはあまり関係の無い話だ。

私は小さな頃から共働きの親に変わってご飯を作っていた。そのおかげで料理は結構得意だ。いつも一緒に食べてる友達はそんな私の料理をすごく気に入ってくれて、少しのお金をもらう代わりに私はその子のお弁当も作っている。1人分作るのも2人分作るのもあまり差はないし、自分が作ったものをおいしいそうに食べてもらえるのは嬉しいしで万々歳だ。


いつもより静かな教室で、私は1人でお弁当を食べすすめていく。
友達からの「ごめん風邪ひいたから今日休むねほんとごめん!」というメールが届いたのが、お弁当を作った直後だったので、今私はお弁当を2つ持っている。もったいない精神で持ってきたけどこれどうしようか…。

それから、昼休みも中頃という時に氷室くんがシュンとした表情で教室に戻ってきた。氷室くんはそのまま私の隣の席へと腰をおろす。
その顔があまりにも落ち込んでいて、私はついつい声を掛けてしまった。

「氷室くんどうしたの?」

「……ああ、今日購買がすごく混んでいてね。お昼を買えなかったんだ。」

眉尻をさげた表情で氷室くんはそう言った。イケメンの困り顔ってちょっと色っぽい。
そういえば氷室くん、いつも購買でパン買ってたな。

「じゃあどうするの? 今日絶食?」

「いや、放課後に急いで購買に行こうと思うよ。放課後ならパンも再入荷してるだろうしね。」

「それじゃあ昼からの授業地獄じゃん。ちょっと待ってて。」

これほどまでにナイスタイミングといえることがあろうか。私は鞄にしまっていたもう一つのお弁当を取り出す。それを氷室くんはキョトンとした顔で見ていた。

「これあげる。」

「えっ。」

ほいっとお弁当を渡すと、受け取った氷室くんは私とお弁当を交互に何度も見つめた。

「いつも友達に作ってるんだけど今日あの子休みだからさ、余ったんだよね。」

「え、でも、」

「足りないかもしれないけど、食べなよ。さすがに放課後までなんにも食べないのはきついっしょ。」

そう言って笑ってやると、氷室くんは一瞬目を丸くして「………ありがとう」と言った。うん、もったいない精神で持ってきてよかった。さすがに同じ弁当2つも食べる気はなかったし。

氷室くんは包みをあけていただきます、と手を合わせて食べ始めた。氷室くんに食べてもらうのは初めてだからすごく緊張する。思わず氷室くんの方を何度も見てしまった。

「……おいしい!」

「あ、ほんと?」

氷室くんが食べながら笑顔になったのを見て、安堵のため息が漏れた。よかった、氷室くん帰国子女だから口に合わないとかだったらどうしようかと思った。

「本当においしいよ。 」

「ならよかった。」

「なんて最高なんだ…!」

「ありがと。」

「こんなおいしいものを作れるなんて…君は天才だね!!」

「…そ、そんなに?」

「俺、こっち来てからずっとこういう家庭の味みたいなの食べてなかったから…。」

「ああ、なるほど。」

「それにしても、素晴らしいね!すごいおいしい!!」

無邪気に喜びながら食べ進める氷室くんを私はどこか親目線で見てしまう。そうだね、寮暮らしだもんね氷室くん。
てか褒めてくれるのは嬉しいんだけど氷室くん声でかいな。教室中から結構注目を浴びていて恥ずかしい。…これがアメリカ仕込みの派手なリアクションってやつか。ちょっと私そのテンションついていけてない。

氷室くんは相変わらずキラキラとした笑顔で、合間合間にwonderful!だのexcellent!だの色々な褒め言葉を叫びつつ食べていく。女の子用に作ったお弁当はやっぱり運動部の男の子には少し足りなかったみたいで、氷室くんはあっという間に食べ終えた。ありがとう、と言って氷室くんはお弁当箱を返してくれる。まあなんにしても美味しく食べてもらえてよかったよかった。

すると氷室くんは笑顔から一転、真顔になってなにかを考える素振りを見せた。今日は落ち込んだり驚いたり喜んだり真顔だったり、氷室くんの表情がコロコロ変わって面白いな。いつもはずっと冷静な感じなのに、珍しいもの見てる気分だ。

そんなことを考えていたら、氷室くんが急に私の手を握ってきた。驚いて氷室くんの顔を見るとその表情は真剣なものになっている。な、なんだこの雰囲気。そんな私たちを見て、教室中がざわっとする。ちょ!注目!注目浴びてるから私たち!

「な、なに、どうしたの。」

「…君に頼みがあるんだ。」

その顔は茶化すようなものではなく至って真剣で。握られる手の力が少し強くなった。その真剣さに私は思わずごくりと喉を鳴らす。…な、なんなんだろう。

「これから、…俺にお弁当を作ってくれないか。」

「……え?」

「お金なら払う。」

「いや、でも、」

「俺は!君の料理に感動したんだ!」

「あ、ありがとう。」

「そして是非とも毎日あれを食べたいと思ったんだ!だから頼むよ!!」

「わ、分かった。分かったから氷室くん、声でかい!」

そのあまりの勢いについ頷いてしまう。私のその反応を見て「嬉しいよ」と氷室くんは微笑んだ。

……どうやら、随分とお気に召されたようだ。



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夢主の男前感が出てないだと…?!ほんっとすいません。このまま、毎日この料理を食べたいから俺のお嫁さんになってくれ!とぐいぐいこられる展開でも、乙女化した氷室がなんとか夢主を嫁にしようと悪戦苦闘する展開でもどっちでも面白そうですね。氷室はテンション上がると声が大きくなるとかだと可愛い。リクエストくださった冬瑚様、本当にありがとうございました〜!


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