あれから放課後になった。図書委員の仕事があったのだが、今日はいつもより利用者が多く帰る時間が少し遅くなった。 「うわ、雨…。」 校舎を出ようとしたが、外は結構な雨が降っていた。しまった、傘忘れた。降水確率50パーセントだからって油断してた。土砂降りじゃん…。 学校から私の家までは歩いて30分ぐらいかかる。つまりこの雨の中突っ切っていける距離ではない。うーん、どうしよう。普通の部活が終わる時間はとっくにすぎていて、周りには人がいない。近くのコンビニまで走って傘でも買お… 「どうしたんだよ。」 突然背後から声をかけられて思わず肩が跳ねた。振り返るとそこには宮地くんがいた。デジャヴ。 オレンジのジャージ姿を見るに部活終わりなのだろう。わあ、宮地くんすごい遅い時間まで練習してるんだね…放課後まで会うなんてちょっと私不運すぎない……。 「なんでこんな時間まで残ってんの。」 「今日図書委員の当番があって、」 「ふーん。てか、お前傘は?」 「あ、えっと…。」 「忘れたんだな?」 これは、嫌な予感がした。その予感が正解だと告げるように、宮地くんが笑って言った。 「一緒に帰るか。」 「えっ。」 そう言うと宮地くんは持っていた傘を外に向かって広げた。え、ちょ、ちょっと待って、これはもしかしなくても、 「ほら、入れ。」 あああああやっぱり相合傘だ!!!まじか!!まじか!!! 内心絶望しながらもそれでも断るなんて選択肢はなくて、恐る恐る私は宮地くんの横に入った。………わかっていたけど、距離が近い。お昼より近い。 なによりも、相合傘というものが恥ずかしかった。周りに生徒はいないから見られていないとはいえ、お、男の子と相合傘なんて……。しかも相手宮地くんだし。 「おい、名字んちってどこ。」 「へ?」 「だから家だよ家、送ってってやるから。」 「へ?!」 「なんだよ。」 「別に大丈、」 「あ?」 「…お願いします。」 怖いよ、一瞬で宮地くんの眼光鋭くなりすぎて怖いよ。 み、宮地くんに家がバレる…! なんてさすがに送ってもらう立場では思わない。決して思っていない。でもちょっと家知られるって怖いな…宮地くんへのイメージ。 「で、どこ。」 「市役所の近く…。」 「ああ、あの辺か。」 あの辺なら何回か行ったことあるわ、と宮地くんがいった。 「ち、なみに、宮地くんの家は?」 「〇〇駅の近く。」 「え!」 〇〇駅は秀徳高校から見て、ちょうど私の家の正反対の位置にある。そ、それって滅茶苦茶遠回りなんじゃ…! 「み、宮地くん!」 「なに。」 「やっぱり送ってくれなくていいよ、遠回りでしょ?」 「んなこと気にすんな。」 「でも、」 「俺がお前と一緒に帰りたいんだよ。」 「…!」 「お、顔真っ赤じゃん。」 楽しそうに宮地くんは笑った。 …なんかもう、宮地くんといると色々辛いんだけど。 慣れとは恐ろしいもので。私の家まで約30分。宮地くんとは普通に会話が続いた。近い距離には相変わらずドキドキしたけど。 宮地くんはさりげなく車道側を歩いてくれたり、私が濡れないように傘を向けるせいで私と反対側の肩がびしょびしょだったりと、なんかもう、色々とやばかった。イケメンすぎて直視できない。今更だけどなんでこの人私のこと好きなの…。 「じゃ、また明日な。」 「うん。」 結局宮地くんは私の家の玄関まで送ってくれた。 「風邪ひくなよ。」 「宮地くんもね。」 「ひかねーよ。」 鼻を鳴らして宮地くんは笑った。じゃあな、と後ろ手をふって歩いていく宮地くんを見送る。やけにあっさり帰るんだな。私は宮地くんの後ろ姿を見て少し寂しい気持ちになった。 …もうちょっとだけ一緒にいたかったとか、あんなに怖かったのに、そんな馬鹿な。 ← → 戻る |