純潔なふりをして


覚悟しといてって言われたけど…もう無理。無理だった。

キーンコーンカーンコーンと昼休みが始まるチャイムがなった瞬間、私は弁当袋をひっつかんでダッシュで教室を出た。宮地くんがいる教室から逃げるためだ。
そのまま小走りへ屋上へと向かう。と、とにかく宮地くんのいないところに行きたい…!

あれから、宮地くんは休み時間になるたびにずっとこっちを向いて喋りかけてきた。いや、前から結構話しかけてきてたけど今日はその比じゃなかった。本当にずっとだった。
宮地くんは話しながら楽しそうに笑っていたけど、私は内心冷静ではなかった。だって宮地くんの笑顔とか見慣れなさ過ぎて死にそう。かっこいいとは思うけどそれ以前に恐怖を感じる。

ちなみに、宮地くんは顔よし運動神経よし頭よしの三拍子が揃っていて、結構女子から人気がある。だから休み時間にはクラスの女子からの視線がすごかった。それもまた怖かったからほんと宮地くん話しかけてきてほしくなかった。でもそんなこと指摘して機嫌を損ねても怖いので、結局なにも言えずに過ごした。私チキンすぎる。


秋も深まり寒くなってきたせいか屋上にはほとんど人がいなかった。ラッキーだ。適当な場所で腰をおろしてお弁当を広げる。

本当はいつも通り友達とお昼を食べるつもりだったけど、今日の宮地くんのことだ。絶対割り込んでくる。なにそれ恐怖。
そう思って友達に「ちょっと今日宮地くんから逃げるため1人で食べるね」と授業中にこっそりメールを送っておいた。ちなみに返信は「お疲れ、がんば」というものだった。うん、私頑張る。

少し強い風が吹いて思わず身震いする。……さむ。とにかく早く出るのに必死で教室にカーディガンを忘れてしまった。
取りに行きたいけど、今の私にそんな勇気はない。昼休みの間だけだし我慢しよう。

そう思ってお箸を手に取る。はあ。やっと1人になれた。これで安心してご飯を食べ

「お、見っけ。」

ようとしたんだけど悪魔の声によりそれは阻まれた。この声はもしかしなくても…見上げるとそこには案の定宮地くんがいた。しまった見つかった詰んだ。

「隣いいか?」

そう言って宮地くんは、私の返事を待たずに隣に勢いよく腰を下ろす。思わず肩が跳ねた。
まさか…一緒に食べるつもりか宮地くん。せっかく逃げたのに、全く意味がなかった。てか、なんで見つかったんだろう。

それにしても宮地くん、距離が、ち、近い…。少し動いたら肩と肩が触れ合う距離だ。教室とは違い間に机もないしこれはちょっとだいぶ辛い。肩パンされそう。

一方の宮地くんは特に何も気にしていないようで、袋から出した菓子パンを食べ始めていた。自由だなあ…。
すると突然宮地くんは私の方をじっと見てきた。え。なに、

「どっ、どうしたの…?」

「お前薄着すぎんだろ。」

そう言って宮地くんはおもむろに自分の学ランを脱ぎ出す。

「えっ、ちょ、」

「……ほら、これ着とけよ。」

「ぶっ!」

その瞬間、学ランを頭からかけられて視界が真っ暗になった。
ざ、雑…!結構な勢いで投げつけられたんだけど…宮地くんって本当に私のこと好きなの?! ちょっと疑問になってきた。

汚した時が怖いからできれば着たくなかったけど、でも反抗するのも怖いので大人しく学ランを着る。宮地くんの学ランは洗剤のいい匂いがした。
…てか、うわ、すごいぶかぶかだ。宮地くん背高いもんなあ。学ランは、宮地くんが今まで着てた分人肌に温まっていて、冷えた体には気持ちよかった。

「み、宮地くんは寒くないの?」

「…別に。」

渡し方はちょっと怖かったけど、でも貸してくれるなんて宮地くん優しいなあ。
少しだけドキッとした。のだけど、

「……。」

宮地くんは難しい顔をして黙り込んでしまった。その目は私の着ている学ランを見ている。心なしか睨んでいるように見えて、え、これ怒ってる? まさかやっぱ寒いから返せとか?


「(でも脱いだら脱いだで宮地くん怒りそう……。)」

「(…俺の学ラン来てる名字っていいな。)」


結局ずっとびくびくしながらお昼を食べた。


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