眼差しはとろけた


今日最後の授業はホームルームだった。そして今から月に1回の席替えが行われる。
私は、これでもかというぐらい神様に祈っていた。

どうか宮地くんと離れた席になりますように、と。

2年生になってもう半年近くたつけど、私は6月ぐらいからずっと宮地くんの隣か前後の席だった。席替えはくじ引きなのになんという運の悪さ…!ちなみに今は横である。辛い席だった。
誤解されないように言うけど、私は宮地くんのことが嫌いなわけではない。ただ苦手なだけだ。だって怖いし。

くじ引きは席順に行われていて、次は私がくじを引く番だった。前までくじを引きに行く。
箱に手を突っ込んで、引いたくじの番号を確認すると……窓際の一番後ろだ!すごいいい席!やった!
前にいる友達にいいなーと言われつつルンルン気分で席に戻る。が、隣の席の宮地くんにガン見されて一気に気分が下がった。え、これ睨まれてるよね怖い。

「…名字。」

「ど、どうしたの。」

「お前、次の席どこ。」

「え…窓際の一番後ろだけど…。」

「そうか。」

それだけぶっきらぼうに言って宮地くんはくじを引きに行った。宮地くんは友達が多いからひいてもすぐにこっちには戻ってこなくて、いつも誰かと話してから戻ってくる。

ああどうか神様今度こそ離れた席でありますように。せっかくの窓際の一番後ろなんだしゆっくりしたい。
宮地くんが隣だと、休み時間にすごい話しかけてくるし授業中たまに睨んでくるし怖いんだ。全くゆっくりできない。ちなみに後ろだと授業中たまに椅子蹴られるし前だとすごいこっち向いてくる。
こうやって改めて書き出してみると私宮地くんに目をつけられすぎてびっくりする。なにか気に触ることでもしたかな。

あ、宮地くん戻ってきた。…席どこになったんだろう。聞いていいかな…。てか毎回席替えの度に聞くかどうか悩んでる気がする。まず自分から宮地くんに声をかけること自体ハードル高すぎるんだよね……。
勇気を出して聞くべきか否か悩んでいたら、宮地くんに、おいと声をかけられた。ひえっ。

「お前窓際の一番後ろって言ってたよな。」

「う、うん…。宮地くんは?」

よし!聞けた!頑張った私!
どうか、どうか宮地くんが遠い席でありますように!!

心でそう祈ったが


「俺その前だわ。」


…………………………まじですか。





放課後である今、週2回で当番になっている図書室受付をしている。まあ図書委員であるからには避けられない仕事だ。
それにしても今日は図書室を利用する人が少ない。暇である。

私は受付に座りながら、ついさっき行われた席替えについて思いを馳せていた。
明日からまた宮地くんと前後か…。しかも宮地くんが前ってことはこっち振り向いてくるやつじゃん。授業中にわからない問題を聞いてくるのはいいんだけど、宮地くん突然振り向いてくるから超怖いんだよねあれ。あれは何回されてもなれない。あと宮地くん私と喋ってるとき結構真顔だからいつ機嫌を損ねるかと思うと怖くてろくに話せない。ああ明日からも宮地くんが怖い。

「……あ、忘れ物した。」

あまりにも暇だし明日の数学の宿題でもしようかな、と思ってカバンを開いたら数学のノートがないことに気がついた。……とりにいくか。

もう1人の当番の子に声をかけ教室へと向かう。ちゃんと宿題しとかないと宮地くんに聞かれた時が怖いからなあ。今までに宮地くんに聞かれたところで答えられない問題はなかったが、もし分からないとか言ったらどうなるんだろう。考えるだけで怖い。死ぬかもしれない。

教室には男子が数人残っていてなにか話しているようだった。忘れ物しただけだし、さっさと入って出ようか、と思ったんだけど

「てか名字ってさー、」

男子の1人が私の名前を口にするのを聞いて、私はとっさに扉の前にしゃがんだ。な、な、なんだ。私の陰口かなにかか。入りにくいじゃんやめてよ。
別に盗み聞きをしたいわけでもないのについつい聞き耳をたててしまう。だって自分が何言われてるかとかそんなの気になるに決まってる。ドキドキしながらもここにいるのがバレないようにしゃがんだまま息を潜めた。


「宮地に好かれてること気がついてねーの?」


…………………え?


「いや、気づいてないだろ。だってあいつ、宮地と席近くなり続けてるのも偶然だと思ってるっぽいし。」


……………え、え、え????


「あんな毎回近くなるわけねーのになー。」

「宮地が名字と近くなった奴と交渉して席交換してもらってるんだろ?」


………………えええええええ!!!???


「まあ交渉カッコ物理だけどな。」

「言えてる。」


……………ちょ、ちょ、ちょっと待って。あまりの新事実にちょっと脳の処理が追いつかない。色んなことが脳内でぐるぐるしてる中、え、宮地くんって私のこと好きなの?という言葉だけが強調して浮かんできた。

そして私は1つの失態を犯した事に気づく。

……男子たちの話を聞くのに夢中で視線が扉に向いていて、目の前に人が立っているのに気づかなかったことだ。

「よお。」

「ひっ。」

ちょっと待って、ちょっと落ち着こう、落ち着いて考え直そうと思い目の前を向けば頭上から声をかけられた。こ、こ、こ、この声は……!

「………………み、やじくん。」

今会いたくない人間ぶっちぎり1位の人間がそこにいた。なぜここに。
宮地くんはいつものぶっきらぼうな表情のまましゃがみこむ。自然と目線が真っ直ぐにかちあった。あ、駄目だ、死んだ。

「あいつらの話、聞いてただろ。」

「い、いえ…。」

「嘘つけ。」

ばーか、と宮地くんは悪戯っ子のように笑った。あ、宮地くん笑うとかっこいいな、なんて現実逃避をする。それにしても笑う宮地くんを見れるなんて、私の余命あと何秒だろう。

「なんでそんなビビってんだよ。」

「ひ、」

そう言って宮地くんは真顔に戻って、私にぐっと顔を寄せた。え!え!!ち!ちち、ちちちちち、ちち近い!!!!

「……つーわけで、俺、お前のこと好きなんだけど。」

「…う、あ、」

宮地くんは小声で喋る。それでも言葉ははっきりと聞こえるし顔が近いせいで吐息がかすかにかかるし、あ、ちょ、ほんと、ちょ、待って、


「付き合ってくんね?」


私はたまらず、宮地くんを突き飛ばして逃げ出した。…駄目だ!死ぬ!心臓が死ぬ!!


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