味をしめた思惑


「名字って、絶叫系平気?」

「人並みには。」

私の返事を聞いて高尾は、じゃああれから行こうぜと、この遊園地で一番大きなジェットコースターを指さした。うわ、でか、凄そう。
乗り場近くまで歩いていけば、1時間待ちという看板がたっていた。まあこんなものだろう。おとなしく私たちは行列の最後尾に並んだ。

「見て高尾、着ぐるみいるよ。」

「…うわ、暑そ。」

「最初の感想それ?」

「ほかになにあるよ。」

「可愛いとか。」

「あれ可愛いかー?」

「…確かに言われたら微妙、かも。」

「だろ?」

ニヒ、の高尾は嬉しそうに笑った。うん、前の高尾だ。少しずつだけど高尾の言葉にぎこちなさが取れてきて、嬉しい。

頭上からキャー!と叫び声が聞こえた。まぶしさに目を細めつつも見上げればジェットコースターが縦横無尽に走り回っていた。改めて見ると、…怖そうだな。
隣の高尾は楽しみといった顔で鼻歌を歌っている。なんでそんなに余裕そうなの。

たわいのない話をしていると1時間なんてあっという間に過ぎて。いよいよ私たちの乗る番になった。
係りのお姉さんが席まで誘導してくれて、そのまま安全バーを下ろされる。高尾も私の左隣に同じように乗った。やばい、これ足が宙吊りになるやつだ。すごいドキドキしてきた。足がブラブラしていて、安定していなくて、怖い。

「…お前顔色やばいじゃん。いける?」

「…怖くなってきた。」

「…降りる?」

「降りない。その代わり、…腕くんでもいい?」

不安定なのが怖い。とにかく何かに捕まっていたかった。安全バーは少しグラグラしていてつかまるには心もとないし、なにより人肌の方が安心出来る。…そう思って言ったんだけど。

「…あ、ごめん。嫌だよね。」

私の言葉を聞いてピシリと固まってしまった高尾を見て、私は察してしまった。そうだ、ジェットコースター中ずっと腕にしがみつかれるなんて、普通に考えて鬱陶しいに決まっている。

「…いや、駄目じゃねえ!組む!」

「……え?」

「ほら!腕!貸して!」

「…あ、うん。」

反対側を向いて左手で顔をおおってるせいで表情は読めないけど、右手でしっかり私の左手と組んでくれた。…優しい。




「……ごめん、腕苦しかったよね。」

ジェットコースターが終わり、足元がふらつきながらも私はなんとかジェットコースターから降りた。良かった、生きてる。途中何回も死ぬかと思った。すっごい叫んだし泣きそうになった。てか高尾の腕がなかったら泣いてた。

そんなわけで、スピードも回転も勢いもすべてが予想以上で、私はずっと高尾の腕にしがみついてしまったのだ。しくじった。高尾に迷惑をかけてしまった。
もうこれには乗らないでおこう。と、思ったのだが。

「…なあ、またあとで乗りにこねえ?」

「えっ、…もういいや。」

「……そうか。」

「そんなに楽しかった?」

「…まあ。」

「じゃあ1人で乗りなよ。並ぶのなら付き合うし、高尾が乗ってる間は私下で待ってるよ。」

「いや…いい。」

なんで少しがっかりした顔をするんだろう。そんなにジェットコースター好きなのかな高尾。

「……………1人じゃ意味ねえし。」

「へ?なんか言った?ごめん聞こえなかった。」

「べ、つに!…何も言ってない!」

「?」


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