ときめきの温度


なんなんだ一体、とか言いつつ結局来ちゃったよね私。
今日は日曜日、そして今は10時になる15分前。私は○○駅の改札に立っていた。

一昨日急に誘われてから、高尾に「なんで急に?」という内容のメールやL●NEをしてみたが、全部無視された。無視してくるなんて緑間かお前は。
無視なんて高尾らしくないし地味にダメージがでかかったけど、まあ遊園地に誘われたんだから嫌われてはないんだろう、と自分に言い聞かせてみる。

むしろ今回の遊園地、前のような仲に戻るには絶好の機会な気がする。頑張ろう。
さっきトイレの鏡で髪型も服装もばっちり確認した。遊園地ということでラフな服装で来ようかとも思ったが、それで幻滅されたら元も子もないので、動きやすくかつ女子っぽい服にした。これなら大丈夫…だろう。うん。

「…名字!」

「あ、」

来た。改札の方から小走りで高尾がやってきた。

「おはよ、高尾。」

「…はよ。」

「私服おしゃれだね。」

先週の遠足の時も思ったが高尾の私服はおしゃれだ。学ランも似合っているけどそれとはまた違った印象を受ける。元々顔の作りはいい方だけど、よりかっこよく見えた。これがイケメンか。

「そ、んなの…!」

「ん?」

「…いや、なんでもない。」

高尾は口をパクパクさせてなにかを言おうとしたが結局はぐらかされてしまった。…まあ顔見て挨拶してくれたし、少しは進歩しただろう。うん、好スタートだ。

きごちなくもとりとめのない話をしつつ遊園地まで歩く。日曜日なので人通りも多い。この様子だと遊園地は随分と混んでいるのだろう。はぐれないように気を付けないと。
駅から遊園地までの距離は近くて、あっという間に着いた。

「入場券買う場所どこだろ。」

「なあ、名字、…暑くね?」

「暑い。」

6月で梅雨の季節とはいえ、今日は晴天。日差しはすっかり夏で、かなり暑い。

「…暑いと、脱水とか気をつけないとな。」

「ん?…ああ、うん、そうだね。」

「だから、飲み物、買ってきて。」

「へ?」

「おつりで自分の分も買っていいから。」

はい、と言って渡されたのは500円玉だった。えっ、何故かパシられた。
…高尾って、こういう風に女子になにかを買いに走らせる性格じゃなかった気がするんだけど…もしかして、緑間のわがままがうつった…?それは一大事。
でも、今まで避けられてた分何かを頼まれるのは嬉しかったりする。例えそれがパシリだとしても。

喜び半分悶々とした気持ち半分で自動販売機へと向かう。
あっ、高尾に飲み物何がいいか聞くの忘れてた。自動販売機の前で少し考えたが、スポーツドリンクとオレンジの炭酸を買った。好きな方を選んでもらって残った方を私が飲めばいいだろう。

2本のペットボトルとおつりを持って高尾のところへ帰ってきたけど、あれ、高尾がいない。
こういう時は下手に動かずここで待っておくのが一番だ。そのうち高尾も帰ってくるだろうし。トイレかどこかにでも行ってるんだろうか。

人が多いな、この中から私見つけるの大変かな、背伸びでもしとこうかな、なんて思っているけど、待てども待てども高尾は来ない。…どうしたんだろう。
少しそわそわしつつ、あと5分しても来なかったら電話しようと思っていたその時。高尾が人ごみをかき分けてやってきた。

「わりい、待たせた。」

「どうしたの?」

「…野暮用。それより飲み物サンキューな。」

「どっちがいい?」

スポーツドリンクと炭酸を高尾の目の前に出せば、名字の飲みたい方飲めよと言われた。少し考えてからスポーツドリンクを高尾に渡す。おつりも一緒に渡そうとしたが拒まれた。何故。

「おつりいらないの?」

「…買いに行かせた手間賃として、持っといて。」

「でも、」

「いいから。」

「…わかった。」

「じゃあ入り口、行くか。」

「その前にチケット買わないと。」

「…その必要はねーよ。」

「え?」

「はい。」

そう言ってぶっきらぼうに渡されたのは、1枚のチケットだった。え、これ、もしかして。

「じゃあさっさと行くか。」

「ちょっと待って、もしかしてさっき、これ買ってきてくれたの?」

「……そうだけど。」

「お金払うよ、いくらだった?」

「いらない。…俺が急に誘ったんだし。」

「いやいやいや、高かったでしょ!」

「気にしなくていいっつーの。」

「じゃあせめてさっきのおつり、」

「いらねえって。……黙っておごられといて。」

そう言って高尾は少し笑う。久しぶりに、私に向けられた笑顔だった。

…ちょっとときめいた。


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