変わらぬ笑顔を添えて


引っ越してから約一ヶ月。今日はゴールデンウィーク初日だ。
去年まではバイトを入れていたけれども、今年は違う。てか入れようとしたけど、この間料理中に千尋に後ろから服のすそをつかまれて「…ゴールデンウィークは一緒に過ごせ。」と言われて入れるのをやめた。
あれはあざとすぎた。狙ってやってるのは分かっていたけど無理だった、負けた。可愛かった。

どこかに出かける?と提案したが、人混みは嫌らしく、結局DVDを家で見ることにした。まあ千尋と二人でいれるのなら一日中家でだらだらするのもいいだろう。


私はさっき借りてきたDVDをデッキの中に入れた。今回借りてきたのは、去年流行った恋愛映画だ。すごく泣けると評判らしい。
千尋はテレビの前の床にあぐらをかいて座っていて、自分の太ももを軽く叩いて私を招いてくる。私が千尋の足の間に座ると千尋は後ろから軽く腕を回してきた。私は体育座りをして千尋の腕を胸の前に持ってくる。

実はこの体勢、家で映画を観る時の定番姿勢だ。特に、泣ける映画の時は絶対にこうなのだ。
何故かというと―――




映画は、最後に主人公の女の子が生き別れた恋人と再会をして終わった。
私は流れてくる涙をあらかじめ用意したいたハンカチで拭いた。評判通り、かなりいい映画だった。思いっきり泣いた。まあ肩にいるこの男ほどは泣いてないけど。
千尋は後ろから私の肩に顔をうずめてグズグズと鼻をすすっていた。顔は良く見えないが、肩が冷たいし確実に泣いている。部屋着でよかった、肩びしょびしょだわ。

実は千尋、感情をあまり出さない普段の顔とはうらはらにとても涙もろいのだ。ただ本人いわく私以外の人がいる前では絶対に泣きたくないらしい。
ほんと、外と私の前とで態度が違いすぎる。それだけ素を見せてくれてるってことだからまあいいんだけど。

膝枕といい泣くときに私に擦り寄ってくるところといい、私は千尋の甘えてくる姿が好きなのだ。ギャップがたまらない。

私は、肩に埋まっている千尋の頭を撫でながら声をかけた。

「千尋、いつまで泣いてるの。」

「…泣いてない。」

それに反応して、千尋はズビと鼻をならしながら顔をあげる。
確かに今の千尋の目には涙はなかった。でも目は真っ赤だし、なによりも濡れて色の変わっている私の肩周りが証拠だ。

「泣いてたじゃん。」

「気のせいだ。」

「嘘つき。」

「うるせえ。」

「怒んないでよ。」

拗ねたように口を尖らせる千尋に、私は苦笑するしかなかった。可愛いなもう。

にやけないように口を押さえていたら、千尋は急に真剣な顔で私を見てきた。え、さっきまでの拗ね顔何処いったの。
肩に頭が乗っているのもありとても近い距離で目があう。

「どうしたの?」

「…さっきの映画で、男がプロポーズするシーンあったろ。」

「あったね。」

確か最後に再会したシーンで男が恋人に言っていた。『これからはずっと2人で過ごしていきたい』って。

「俺は、」

ひと呼吸置いて、千尋が口を開いた。その目はあまりにも真剣で、私の心臓は大きく脈打った。

「…これからも、お前とこうして過ごしていきたい。」

「え、」

これってもしかして、

「…プロポーズ?」

「………それ以外になにがあんだよ。」

「…そんな無表情で言われても。」

でも私にはわかる。今、千尋はものすごく照れているってことを。千尋の目をしっかり見れば、ふっと斜め下に目をそらして気まずそうな顔をされた。それでもこちらを気にしてチラチラと見てきて…ああもうなにこれ可愛すぎる。

「…まさか泣きながら言われるとは。」

「泣いてない。」

「いたた、ごめんってば。」

肩の骨のところを頭で思いっきりグリグリされて思わず謝った。
ぶすっとした顔で千尋は再びこちらを見る。

「で、…お前はどうなんだ?」

「…幸せにしてくれる?」

「当たり前だ。」

たかが学生の言葉、そう思われるかもしれないけど

「…俺がお前を、一生幸せにしてやるよ。」

それは私にとっては何よりも確実なものに聞こえた。


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