遠回りして誘惑


高尾がよそよそしくなってから4日目。今日も相変わらず高尾とまともに喋らなかった。
もう金曜日だし、今までは放っておいたらどうにかなるだろうと思っていたけど、ここまで来たらいい加減なにか行動をしないといけない気がする。

でも、そもそも高尾とこうなったきっかけが私にはわからなかった。
話さなくなる1日前、つまり5日前の日曜は遠足だった。振替休日はなかったが、遠足自体旅行みたいで楽しかったからまあ良しとする。行き先はお寺の観光で、同じ班だった私と高尾はいつも通り仲良く話していた。

変わったことといえば、私と高尾が途中で他の班のみんなとはぐれてしまったことぐらいだ。視野の広い(らしい)高尾の目を使っても合流できず、結局2人でお寺を巡った。周りに知り合いの少ない2人きりの環境というのは新鮮だったけど、会話の内容はいつもと同じ感じだった。
少なくとも嫌われるようなことは言っていない…はずだ。


話は戻って4日目である今日。そして今は放課後。
帰宅部である私はとっくに学校を出ている時間なのだが、先ほど数学の先生に出会い「高尾がまだノート出してないからもらってきてくれ。お前ら仲いいだろ。」と言われた。
先生、あのですね、私たち今仲良くないんですよ。そう言いたかったが、数学の先生は機嫌を損ねると怖いのでおとなしく引き受けた。

正直に言うと、バスケをしている緑間を見たいという下心があったりする。中学の時に1度だけ見たことがあるが、あいつのシュートは本当にやばかった。CGみたいだった。

と、いうわけで体育館に来た。中からは複数の野太い声が聞こえてくる。運動部って感じだ。
来たのはいいけど扉しまってるし中入っていいのか疑問だな。私部外者だし。扉を思いっきりあけて注目浴びるのも嫌だし。てかそもそも今の状態で高尾に声かけてもまともに会話できないし。さて、どうしよう。

「あ?誰だてめえ。」

扉の前で思案していると、突然後ろからドスの効いた声が聞こえてきた。振り返るとオレンジのバスケ部ジャージを着た男の人がそこにいた。

この人、知ってる。薄い茶髪に大きい目、あと鋭い口調。高尾が以前めちゃくちゃ怖いと言っていた人と特徴が一致している。おそらくこの人は、3年の宮地サンだ。
まあ名前と特徴知っているだけで面識は全くないんだけどね。一方的な知り合いって感じ。

「誰だって聞いてんだよ。なにボーっとしてんだ、返事ぐらいしろ。」

眉間にしわを寄せて宮地サンはそう言った。顔怖っ。

「あの、…えっと、名字ってやつが数学の未提出のノート取りに来たって高尾に伝えてもらえませんか?」

「…ああ、お前が例の名字って奴か。高尾呼んでくるから待ってろ。」

「ありがとうございます。」

体育館の中に入っていく宮地サンの背中に向かって1つ礼をする。怖いけど結構いい人みたいだ。

…ん?さっきの宮地サンの言葉にどこか引っ掛かりを感じる。なんか、私のことを知ってるような口ぶりだったよね?例の奴?
部活の先輩にバスケとなにも関係ない奴の話なんてしないだろう。しかもいくら仲がいいとはいえ女子の。まあ普通はしない。ということは高尾や緑間が直接私の話をしたっていうわけではなさそうだ。
じゃあどこから私の話が流れた?入学して2ヶ月、そんな他の学年に名前を覚えられるレベルの目立つことなんてしていない。

もし、宮地サンがニヤニヤしながら言っていたら、仲がいいぶん高尾と付き合ってる的な勘違いをされたのかな、と自惚れのようなことも思うだろうがなんせさっきの宮地サンは真顔だった。

…あ、もしかして悪口?
うん、悪口っていうか嫌な奴いるんすよ的な話なら先輩に対してもするかもしれない。え、嘘、…うわ、早く謝ろう。なにか心当たりがあるわけでもないけどとりあえず謝っておこう。悪口はほんと嫌だ。

心の中で1人決意を固めていると扉の開く音が聞こえた。そこにいたのは高尾だった。来た。
…よし、謝るぞ、謝る。
目を合わせてくれない高尾からとりあえずノートを受け取り、さあ謝ろうとした。が、珍しいことに先に高尾が口を開いた。

「……なあ。」

「ん?へ、なに?」

「…明後日の日曜、あいてる?」

「は…?あ、うん。あいてるけど…?」

急に何。どうしたの。そう続けようとしたが、

「…遊園地、行かねえ?」

「え?」

「○○駅の近くの、最近新しく出来たとこ。」

「あ、うん、えっと、場所とかじゃなくて、…え?」

「いや、か…?」

「嫌じゃないけど…。」

「じゃ…、じゃあ日曜の10時!○○駅でな!」

それだけ言うと高尾は猛スピードで体育館の中へと戻っていった。
…なんなんだ一体。さすがにこれは予想外すぎるだろう。


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