狼はいくじなし


高尾が最近おかしい。

私と高尾の出会いは1ヶ月前の入学式。クラス分けの掲示をたまたま近くで見ていて、あ、同じクラス?じゃあ一緒に行く?というような感じだった。

高尾は相手が初対面だろうと上手く話す奴で、私と高尾はすぐに仲良くなった。
その後4月中に行われた席替えで隣になったり、緑間という共通の友人(?)がいたりといったおかげで、6月になった今ではクラスの中でもトップクラスの仲と言えるまでになった。

と思っていたんだけど。

「高尾、おはよ。」

「あ、ああ、おう…。」

「…。」

朝、教室に入ってきた高尾にあいさつをしたがすぐに目をそらされた。

そう、最近ずっとこれだ。
こういう態度をとられるようになったのは3日前のことだ。声をかけても返事は曖昧で、すぐに会話が終わる。前まではうるさいぐらい話しかけてきたくせに最近は全く話しかけてこない。

しかもこの態度、私にだけなのだ。その証拠に高尾は今後ろの席の緑間と楽しそうに話している。緑間の言葉に爆笑したり緑間の背中を叩いたりと、随分忙しそうだ。3日前までは3人で楽しく喋ってたのに。

私は知っている。今、この2人の会話に交ざろうものなら、高尾が黙りこくってしまうことを。てか実際一昨日にそうなった。

ここまで避けられていると、もしかして私が何かしたのかなと心配になってくる。心当たりは全くないんだけど…クラスの子にも「喧嘩したの?」とか「早く謝りなよ。」とか言われたし…。
てかなぜ私が悪い前提なのか。

でも、私を避けてるわりに、高尾はよくこちらをチラチラと見てくる。だけど私が高尾の方を見ると、思いっきり目を逸らされるのだ。
なんなのもう!





「で、なんでだと思う?」

「なにがだ。」

「高尾が私を避けてる理由。」

「俺に聞くな。」

今日は私と緑間が日直の日だった。
放課後である今、私は生真面目な字で日誌を書く緑間を正面から肘をつきながら見ていた。

「冷たいなあ。友達の相談ぐらいのってくれていいでしょ。」

「誰か友達だ。…どうせ、お前が高尾になにかしたのだろう。」

「みんなそう言う。でも心当たりがないんだよね。」

ため息を吐きながらそう言えば、緑間は日誌から顔を上げずに言葉を続けた。

「自分にそのつもりがなくても、知らぬ間に相手を傷つけていることだってあるだろう。」

「えっ…まさか緑間の口からそんな言葉が出るなんて。」

「潰すぞ。」

「いた、ちょ、ごめ、いたたたたた!」

突然伸びてきた手に頭を掴まれたかと思えば、そのまま万力のようにぎりぎりと締め付けられる。

「真ちゃーん、日直終わった?今からミーティングだから早く来いって先輩が……、」

その時教室の扉が開いて、馴染みのある声が聞こえた。高尾だった。
扉の向こうに立つ高尾は笑顔だったが、私の姿を見てピシリと固まる。またその反応か。緑間も空気を察したのか私の頭から手を離した。

「やっほ、高尾。」

「お、おう…。」

片手をあげて前みたいな態度で声をかけてみるけど、返ってきたのはなにか焦ったような声だった。
そんな反応されると、こっちがお、おう、って感じになる。

「緑間、今からミーティングなんでしょ。日誌は私が書いとくから部活行きなよ。」

「すまない。」

「続きは私に任せな。」

「馬鹿め。」

ふざけた口調で言って拳を突き出せば、緑間は私の拳を軽く叩いた。いや、そこは拳を突き合わせるとこでしょ。
わざとらしく唇を突き出して不満アピールをしてみると緑間は馬鹿にしたように軽く笑った。

ふと、高尾の方を見てみればとんでもない顔で私たちを見ていた。驚いているような焦っているような怒っているような…なんの顔だあれは。

緑間はそんな高尾の顔なんて気にせずにそのまま教室を出ていく。そのあとを追って高尾も慌てながら出ていった。仲いいんだか悪いんだか良く分からないなあの2人。

しばらくして、廊下から「真ちゃんの馬鹿!馬鹿!バーカ!!」「なにがなのだよ。」「うっせ!!」と言う2人のやり取りが聞こえてきた。なに、情緒不安定なの高尾。


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