おまけ


付き合ったからといって、私たちの関係は前とあまり変わりがなかった。
ルームシェアという名の同棲準備はゆっくりとだが進んでいるし、お互い下の名前で呼ぶようにもなった。だが、それ以外には何もない。恋人同士のいちゃいちゃとか、そういうものが。

「なんか私らってあんま変わってないよねー。」

そう思ったので、いつも通りの食事中にそう言ってみた。
話をふられた当の本人は一瞬ぽかんとした顔をして、口を開いた。

「何の話や。」

「んー?付き合ってからの話。」

「変わってへん言うても名前で呼ぶようになったやん。」

「でもそれ以外そのままじゃん。」

「…せやな。」

「でしょ?」

そう言って私はオムライスを口に運んだ。今日のオムライスは翔一が作ったものだ。うん、相変わらずおいしい。
まあ別に進展とか求めてるわけじゃないけどね。この距離感すごく好きだし。

それでこの話は終わりというように違う話を振れば、あっという間に話題は変わった。いつものようにくだらない雑談をしつつお互い箸をすすめる。
しかしもうすぐ食べ終わる、というタイミングで翔一は突然話題を戻してきた。

「お前、いちゃいちゃとかしたいんか。」

「いや、そういうわけじゃないけど。」

「しゃあないな。」

「なにが。」

そんな私の言葉を無視して翔一は最後の一口を食べると、どっこいしょと言って立ち上がった。そしてそのままこっちにやって来る。え、なに。

「ちょ、」

「はー、どっこいしょ。」

そう言って翔一は私の真後ろに立って腰をおろした。そしてそのまま私の腰に手を回して、

「わ…!」

「おーよしよし。」

抱き寄せた。

って、…え!?

「自分ぬくいなー。」

「な、にして…!」

「ん?いちゃいちゃしてる。」

「いやいやいや!」

「ほら、もっとこっち来ーや。」

翔一はそのまま、私にくっついて背中に密着してきた。手は少し強めに腰にまわされている。
触れている場所があまりにも多すぎて、心臓が激しく脈を打ち出した。それなのに、翔一はいつも通り平然そうにしていて。なんでなの。私はこんなにもドキドキしてるのに。本当に心臓がおかしくなりそうだ。

「で、感想は?」

「…すごく恥ずかしい。」

「じゃあ、もっと恥ずかしいことしたろか。」

「へ?」

もぞり、と翔一が動いてそのまま私の首に顔をうずめた。その行動に、思わず、ひ!と言う声が出る。
それを聞いて翔一は、喉を鳴らしながら面白そうに笑った。その笑い声がすごく近くて、更に体が熱くなる。ほんと、待って、待って。

「名前、顔真っ赤やで。」

「…こ、こんなことされたら誰でも赤くなるし!」

「なんや、嬉しないんか。」

「はい?」

「なんかあんま喜んでへんやん。」

せっかくやったったのになー、と翔一は肩にあごをのせて言った。思わず翔一の方を見れば、目が合う。
なにその聞き方、ずるい。そりゃ距離近いし、心臓うるさいし、くっつきすぎだし、恥ずかしいけど

「……嬉しい。」

嫌なわけないじゃん。

ならよかったわ、と翔一は笑って言った。そんな翔一の髪を軽く撫でながら、私も少しだけ笑った。


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