全て手のひらのうえで


「やっほー今吉こんばんわ!」

「おお。」

いつも通りの挨拶をしていつも通り今吉の家にご飯を貰いに来た。私が今吉宅に突撃と●りの晩ごはんをするようになってから約半年。季節はすっかり秋だった。

「今日はなにー?」

「鍋。」

「お、いいですなあ。」

半年前、大学が同じな諏佐とL●NEをしていたら「お前って今吉と連絡とってねーの?」と聞かれた。確かに高校の時あんなに仲が良かったのにお互い大学に入ってからは関わりがない。久しぶりに会ってみたいな。
そう思った私は諏佐から今吉の家を聞き出し、突撃訪問したわけだ。ご飯を頂戴は軽い口実だった。しかしそのおかげで毎晩こうして今吉と会えるので結果オーライである。

最初はうざったそうにしていた今吉だったが、最近は満更でもないよう(にも見えるの)だ。その証拠に、私が友人との付き合いだとかで来れなかった翌日のメニューはいつもより豪華になる。よく、今吉は真意が分かりにくいと思われているが、結構分かりやすい。

このことを可愛い後輩であるさつきちゃんに話せば「えっ!それで付き合ってないんですか!?」と言われた。
…毎日一緒にいるからって付き合ってるとは限らないんだよさつきちゃん。今吉とは気が合うし一緒にいて面白いけど、付き合うとかは考えたことがない。てかまず今吉が「お前なんてなしやわ」って言うと思う。てか言う。

食器を運んで大人しく席に着く。キッチンを見れば、今吉が鍋を運び出そうとしていた。いい匂いがする。

「鍋運ぶからじっとしときや。」

「こぼさないでね。」

「フリか?」

「そんな命張ったフリはしない!」

「なんやノリ悪いな。」

かけたろか?と笑いながら言う今吉に対して、私はNO!と手でバツを作る。
今吉はなんていうか兄みたいだ。そして今吉も私のことを妹みたいに扱う。そしておちょくってくる。最近はそれが特に顕著だった。

かけられることもなく無事鍋を運び終えた今吉は私の正面に座る。すっかり定位置だ。
一緒にいただきますと手を合わせて私は箸を持った。ちなみにこれは今吉がこの間私にくれたものだ。急なプレゼントに驚いたけど、私はこれをなかなかに気に入っていた。可愛いし。私はこういう今吉のセンスが好きだったりする。

鍋を口に運びながら、いつも通りなんてないことを話した。内容は大体、お互いの大学の話だ。
私は食べながら、そういえば、と前々から思っていたことを改めて思い出した。

「今吉さー。」

「なんや。」

「料理うまくなったよね。」

「そうか?」

「いや、もともとうまかったけど、最近はなんか味がすごくおいしい。」

「日本語おかしいで。」

私の好みの味になってきた、なんて言うのはさすがにおごがましいだろうか。でも、最近は特に、今吉の作る料理はすごく好きな味がする。

「逆ちゃうん。」

「逆って?」

なんでだろう?と首をひねっていると、今吉がそう口を開いた。逆?

「お前の舌が、ワシの作る料理に合ってきたんちゃうんけ。」

「!……そうかもしんない。」

確かに。そう言われれば、私は最近レストランやカフェであまり量を食べなくなってきた。どうしても今吉の作る料理の味と比べてしまうのだ。今吉が作ったほうがおいしい、と。

「ま、今吉のご飯おいしいから、いーかな。」

結論はそれだった。おいしいものが食べられればそれでいい。

「…せやな。」

「?」

そう言った今吉の顔が笑っている理由を、私はまだ知らない。


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