短編 | ナノ


君が生まれたその日を、



※幼馴染シリーズ
※轟焦凍誕生祭2023!(準備号)




 本格的な寒さが雄英高校にも襲いかかってくるこの時期。
 冬休み中のインターンを経て、新しい年を迎え、冬休みを終えたわたしたちは学年を締めくくる三学期へ突入していた。
 暖房をつけなければ凍えるような寒波に麗日さんを筆頭にみんなは口々に寒いと言いながら、八百万さんが淹れてくれた紅茶や鍋などを囲んで暖をとっている。わたし自身は個性の影響もありあまり寒さに弱いとかはないんだけどもここ最近、毎日心配りの紅茶が振る舞われるから身も心もポカポカだ。今日もまた誘われるがままに階下に向かって、ゆっくり歩いていると。廊下の壁に貼られたカレンダーに足を止めた。

 一月五日。特段なにか用事があるわけでもない日付の、その六日後。

 人にとってはこっちも無関係な日付、でも、わたしにとっては大切に抱きしめていたい日だった。
 無意識に眉尻が下がり、小さく息をついてしまう。
(……、結局、年末までに決まらなかったな)
 年末、といってもインターン中だったため決まっていても調達できたかどうかも怪しいが、定まっているか否かでは余裕に雲泥の差がある。
 ――一月十一日。焦凍くんの、誕生日。出会って数年はお祝いできていた。けど、そこから先は満足にお祝いできた思い出はなくて、今年が、幼なじみに戻れて初めての誕生日だった。何をあげよう、どうお祝いをしよう。そんな考えを年が明けるずっと前からしていたはずなのに、いざその日が近づいてくると思考が固まり、ぴったりなプレゼントが思い浮かばなかったのだ。そうこうしている内にインターンが始まり、元旦となり、今に至る。
(どう、しようかな)
 もう世間は平日だ。さらに雄英で自主鍛錬や予習復習などを反復するので時間はあるようでない。動くのなら自由に動ける日曜の今しかない。
 きっと焦凍くんは何が欲しいか聞いても、物欲がないから、めぼしいものは答えてはくれないだろう。それに、わたしがこれと決めたもので喜ばせてあげたい。少しでも自分が生まれた日を嬉しく思えるようになれれば、と、そう思っている。視線をカレンダーから外して、もう一度ため息。とりあえず八百万さんを待たせるわけにもいかないと止まったままの足を動かしかけた時、「あれ、汐ちゃん?」前方から声をかけられた。
「あ」
「どしたん?なんか、気落ちしたみたいな顔しとったけど」
「ああ……えっと、ちょっと悩み事を」
 麗日さんだった。もこもこのパジャマに身を包む彼女も共同フロアへ向かっているのか、自然と横並びでエレベーターを待つことに。
 聞いてみるのも、ひとつの手かもしれない。自分の視点では見られない何かが得られるかもしれない。
「あのね、十一日って焦凍くんの誕生日なの」
「轟くんの?そうなんや」
「それで、ずっと何をあげようかって悩んでて……」
「うーん……汐ちゃんからもらったものはなんでも嬉しそうな気もするんやけどね」
 腕を組んで一緒に考えてくれる彼女にお礼を言いつつ、開いたエレベータに乗り込む。わたしからの贈り物だけじゃなくて、みんなからもらったものなら彼はなんでも嬉しく思うだろうし。
「これまで、満足にしばらくお祝いできてないから。ほんとうに嬉しいものを、あげたくて」
 当日に顔を合わせた瞬間におめでとうは言っていた。でも、プレゼントは決して受けとってくれず酷い時は頭ごなしに怒鳴られた時もあったっけ。負担になるのも嫌だからその年以降は言葉だけに留めた。毎回、今年は渡せるかもしれない、贈れるかもしれないと淡い期待を抱いて用意をしてはいたものの。諦めの悪いというのは、こういうことを言うんだなって知った、あの日々。思いを馳せていれば、「……ふふ」小さく笑い声が隣から上がった。
「え、な、なに?」
「ううん。ほんとに轟くんのことが大事なんだなって思って」
「……うん。たったひとりの幼なじみだから」
 彼を守りたいからと。笑顔を、たったもう一度だけでいい、見たいと、ここまで来てしまった大きく育ちすぎた、感情。我ながら重いなぁ、なんて気づいてもきっともうどうすることもできやしない、焦凍くんへの、きもち。
 今のわたしと、拒絶され、そばにいることしかできなかった過去のわたしでは自覚している感情が違いすぎる。伝える気も、一切ない、こぼれ落ちることもない、両の手のひらで覆ったあわくも瞬くそれ。更衣室ではからずも知りえてしまった麗日さんの想いに便乗、ではないけど、幼なじみとして、わたしは彼の傍にいたいのだ。
「私が言うのもなんだけどさ……元日にみんなで初詣に行ったでしょ?」
 チン、と目的の階についたことを知らせる音が鳴る。うん、と相槌を返す。
「色合いも装いも似てる晴れ着のふたり、とっても素敵やったよ」
「ありがとう、お互いに和装には縁がある家だったからね。みんなも綺麗に着飾ってて、写真も、大人になっても宝物だよ」
 真白い雪の中でみんなで並んで撮った写真は、自室の写真立てにしっかり飾られていて、脳裏に過ぎるのは雄英に入学した当初では考えられないほど穏やかな時間を共に過ごした、焦凍くんの顔。
 八百万さんも蛙吹さんも麗日さんも、飯田くんも緑谷くんも自分に合った晴れ着を着込んで、似合っていた。おみくじを引いたり、甘酒をもらいに行った焦凍くんについていったのもある、が、そうだな、お守りも……見ておけばよかったかも。

 …、
 ……、
 …………おまもり?

「どしたん?」
「待って麗日さん、思いついたかもしんない」
「え?」
「ごめんちょっと一回部屋に戻るから少し遅れるって伝えておいて!」
 言い切る前にエレベーターのボタンを強く押しこみ、運良く開かれたそれに飛び乗るように駆け込んだ。驚いた顔でこっちを見る友人に申し訳なく思いつつ、逸る気持ちがおさえられない。
 焦凍くんはお守りについてはいいと言っていた。横目で見えてしまった家内安全の文字に心のどこかで引っかかっていたのも、覚えている。
 四階で降りて、麗日さんの隣の部屋へと入り、机の上に置きっぱなしのスマホの電源を入れる。そして素早く連絡先を開いてある名前のところをタップ。この時間、この時期なら特に問題なく繋がるはずだ。ワンコール、ツーコール、スリーコールが始まりかけた瞬間、『もしもし氷麗?』中性的な女性の声が耳元をくすぐった。
「お母さん?突然ごめんね、五年前に一緒に買ったオールマイトの――」

 わたしにできる、最大のプレゼントを。









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