短編 | ナノ


その背を目指す



 北くんはちゃんとやる人間だ。朝練も勉強も授業も品行方正で、日々の継続反復を丁寧にこなしている。
 例えそれが強豪と名高い男バレのスタメンに繋がらなくても、彼は厳しい練習を踏み越えてマネージャーが率先してやるような裏方すら手伝っていた。マネージャーはそれなりにいる。でも北くん曰く、今年は勧誘活動が上手くいかなかったのかまだひとりも入部しておらず、北くん主導のもと、尾白くんも率いて私をバレー部に誘ってくれたのが約半月前のこと。
 さっきも言ったが、一年でありスタメンを張れるような身体能力を持たない北くんとは、新入りのマネージャーである私と業務の関係で一緒にいることが多かった。スコアの付け方、ボトルの洗い方、試合のルールなどなど。高校からバレーに深く関わる私に呆れも諦めもせず、根気強くちゃんと教えてくれる北くんにほんの僅かな憧れと、好きを抱いてしまうのは仕方がなかった。



「いまのは?」
「タッチネット。Bチームの得点、だよね」
「せや。だいぶできるようになったなぁ」
「北くんのおかげだよ、ありがとう」

 ポイントをめくりながら北くんにお礼を言えば、小さく頷かれる。
 そこから話は途切れて、視線をコート内に移す。自分よりかなり高い身長を駆使して動き回る先輩たちは、至極楽しそうに、時にお腹が減っているみたいにバレーをしていた。シューズが床を擦る音、レシーブの際の轟音、ワンバウンドしたボールの勢い。
 冬に入りかけた時期でも、体育館にこもる熱気が汗を誘発する。隣に立つ北くんから「拭いとき。汗が冷えて体調崩したらあかん」とお言葉を頂いてミニタオルを取り出して米神にあてる。あ、サービスエース。Aチームのポイントだぁ、と一瞬目を離してタオルをしまいかけた、その、刹那。「ッ、伊月!」「えっ?」鋭い呼びかけでハッと顔を上げるが、遅い。サーブレシーブで弾かれたボールが、顔面に向かって。

「────……!!」

 直撃する! 訪れるであろう衝撃に目を瞑る。
 しかしいつまで経ってもそれは来ず、何かを弾く音と共に目を開ければ。

「北ァすまん!怪我は?」
「大丈夫です。当たってません、伊月さんも」

 あ、と呆けた声がもれた。慌てて何度も頷いた。

「あの北くん、ごめん」
「ええよ。怪我がなくてよかったわ」
「私も咄嗟に手を突き出す練習してみる。いつも北くんが居るわけじゃないもんね」

 一秒にも満たない時間の中で体を操るそれをイメージしながら、今度は試合から視線をそらさず考える。
 「……せやな」少し遅れて反応した北くんは、最近見かけるようになった表情を浮かべていて、内心首を傾げた。すぐに切り替えるのも、北くんらしい。

 初めての春高全国まで、一ヶ月切った。









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