短編 | ナノ


A



「佐久早〜伊月〜委員会決めた?」
「それ去年も聞いてきたね。結論的にいえば無理くない?早朝練と午後練含めて全国ある部活に入ってる人は」
「やっぱり?いやさ中学の時はまだそこそこ時間取れてたんだよね」
「私一回でいいからマイク通した佐久早の声聴いてみたい」
「ぜったいにやだ」

 マスク越しにくぐもった批難めいた声に申し訳ないが笑ってしまった。一番可能性の残された壮行式もスピーチ役は主将であり、いくら絶対的エースでもお鉢は回ってこないのだ。回ってきたところで佐久早は一蹴するだろうけど。

「でも来年は佐久早が話すかもじゃん」
「古森がやれよ」
「ぶっぶ〜!!リベロはチームキャプテンには含まれませ〜ん」
「ちっ」

 凶悪な顔になったって無理なものは無理である。古森の性格と実力を総合すると主将に向いているのだが、ルールでリベロはキャプテン不可と定められているのだから、やはり二年の中でスタメン入りをしており場数を踏み慣れている佐久早がいちばん可能性があった。……というか、直接聞いた試しはないけど飯綱さんも次期主将は佐久早だと思ってそうなんだよな。
 満場一致とまではいかなくとも、私と古森はそう思っているし、いずれそうなるだろうなとも意見の一致を見せている。未来構想を脳内で再生させていき、あ、と今朝伝えられた話をまだ開始してないと気づき。「そうそう」

「今年の総体終わって、インターハイ予選から私がベンチマネージャー入ることになった」
「おろ、先輩は?」
「進学関係で夏で引退するらしくて、少しでも後輩の私が慣れた方がいいだろうって監督と飯綱さんに打診してくれてる」

 最後のインターハイならそこまで残留の方がいいのではないかと進言したら、だからこそ≠ニ私のベンチ入りをつよく語ってくれた。言外に、佐久早の代を見据えた作戦なのだと言われた気がして、断れずも、自分の意思で頷いた。毎日、努力を重ねる。新しい努力をしなければならない。

「伊月の声は通るし、こっちが点を決めた時にバンザイとかしそう」
「え、たぶんするよ?!佐久早ナイスキー!とか古森ナイスレシーブ!と言うもん!」
「汐ちゃんそれ言う時の顔すごいことになってるけどね」
「なにそれ私知らないが!?」

 高校トップレベルの強豪校と呼ばれる井闥山学院のバレーだ。迫力満点であり、この人たちのバレーを間近で見られることに対しての興奮もある。加えて、私は自他ともに認めるやかましい女だった。
 勝てば喜ばしい。負ければ悔しい。同じ一点の重みでも、相手コートに叩き落とせればそりゃ嬉しいもの。バンザイして何が悪い。

「まあまあ、やかましくても全然邪魔じゃないじゃん?たまに二階席から響くお前の声が割と緊張ほぐすんだよな〜〜!やかましいが!!」
「最後の一言いらなくない??」
「事実だろ」
「はいそこ!佐久早も黙って!」

 私と古森とは無関係ですよと前を向いたままの佐久早がすかさず横槍を入れてきたのを特大ホームランで打ち返すも、返された佐久早はどこ吹く風で頬杖をついている。否定はしないが自覚済みなので黙ってて欲しい。
 一応授業中だがこうして騒いでも注意が飛んでこないのは、この時間はホームルームの延長線のようなものだからで、古森の席はもっと廊下側だったりする。自由奔放すぎる。

「──で、委員会はもうしょうがないとして。少なくとも何かしらの係には所属しとけーってあったろ」
「正直な話、」
「うん」
「すっごくめんどくさい」
「ぶはっ!!係になると途端にめんどうさが発揮されるのウケんね」
「できればやりたくないですね」
「佐久早もそんな感じ?」

 古森の尋ねに佐久早はちらりと一瞥して、また戻る。肯定の意だ。

「えー体育係たのしそーだからやるわ」
「わかる、好きそうだし楽しみながらやってるのが目に浮かぶ」


 結局、意外と体育係に立候補者が集まってじゃんけん大会となり、賭け事などにめっぽう強い古森が見事その座を射止めた話は別の話である。









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