I bite you to death! | ナノ

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来たるは


ー嫌な予感。



「…な、んだ……」
胸元をぎゅっと握り締める。
唇を強く噛み、雛香は眉をひそめた。
動機が激しい。
敵がすぐ近くに迫った時と、同じ感覚。


「……雛乃……?」


いや、弟は家に閉じこもっているはずだ。
自分がそう『命じた』のだから。



ならば。




「……雲雀……恭弥…?」








「…おや?もしかして、桜さえなければと思っていますか?」
暗い部屋に、男の笑みを含んだ声が響く。


「ーそれは勘違いですよ。」


響く、
鈍い残虐の音。


「君レベルの男は何人も見てきたし、幾度も葬ってきた」


ー地獄のような場所でね。


男の言葉に、明暗する視界をなんとかはっきりさせようとする。
だがそれは大した意味を持たず、
ただわずかに捻った学生ズボンのポケットから、
ガチャン、と何かが転がっただけだった。


「…携帯、ですか」


はっとした頃には、男の手に拾われていた。
不意に、ほんの少し前に雛香とかわした会話がよみがえる。



『…じゃ、主犯見つけたらケータイに連絡入れて』
『気が向いたらね』



…そうだ、
雛香に連絡をしなければ。
こんな時に何を思っているのか、
とっさに伸ばした手は、あっけなく空を掴む。


「…そうですね、目ぼしい人はいないようだ…」
勝手に携帯をいじりだした男は、さして期待もしていなかったのかひどくどうでもよさげに呟く。
なら、返せ。
殺意を込めて雲雀が睨み上げたその時、


「……な、」


突然、
男が目を見開いた。
初めて見る驚愕の表情に、雲雀も思わず目を見張る。
次の瞬間、
男はそれはそれは酷く愉快そうに、



笑い出した。



「……クフッ、フハハハハ!これはこれは……まさか、雛香の名前が出てくるとは!!」
「…!!」


雛香?
なぜ、この男が雛香のことを?

完全に予想外のことに、雲雀は眉をひそめた。
たったそれだけの行為にも、頭が痛む。
「……フフ、そうですか…雛香がここにいるのなら…話は、早い」
「っ、何を…」
「ああ、君はおとなしくしていて下さい」
「…っ!」


背中を思いっきり踏み付けられ、激痛が走る。


「……雛香、久しぶりですね」


男は携帯を握りしめたまま、とても愉しそうに笑った。
楽しくて仕方ないというような、
心の底からの笑みを。


「……僕に会えたら、どんな顔をするんでしょうね」


獲物を捕らえた肉食獣に似た、
歓喜と愉悦、
そして、

確かな狂気に満ちた笑みを。

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