I bite you to death! | ナノ

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口づけはお遊戯に見せかけて


「……っ?!…」


これは、

本当に、



どういう状況なのか。




柔らかな感触が唇から伝わる。
ふに、と暖かい温度が妙にはっきりと感じられて、
抵抗することすら忘れていた。
「…ん……」
一瞬、離れたかと思った唇が、
角度を変えた雲雀によってまた重ねられる。



あったかい。



唐突に、そう思った。
押しのけるとか突き飛ばすとか、当たり前の感覚がどこかに行ってしまって、
なぜか無性に、この温かさに泣きたくなった。



ちろり、
当てられた舌の感触に、はっと我に返る。
「…んー、…」
とっさに首を振ると、するりと温もりが離れた。
顔をはなした雲雀に向かい、雛香は当然勢い良く噛み付く。
「お前、何のつもりだよ!」
だが噛み付かれた当の本人は飄々とした調子で、
「何のつもりって?」
あっけらかんと言ってのけた。
「…な…」
さっきまでこいつのケガの心配を少しでもしていた自分が阿呆らしくなってきた。
「…殺す」
「…いいね、そのカオ」
にやり、雲雀はそれはそれは楽しそうに笑うと、雛香の体から退く。
そしてそのまますばやく屋上の隅へ駆け寄ると、雛香が蹴り飛ばしておいた愛武器をはっしと掴んだ。
「な、おまっ、」
「ほら、もう一戦」
完全下校には、まだ遠いよ。


楽しげに微笑む雲雀の腕に、
夕日に照らされ赤く光る包帯。


「…わかったよ」


再び武器を交える頃には、
戯れのような口付けのことは忘れていた。



…否、忘れたフリをしていた。
だって、自分は、


雛乃以外に、
興味を持ってはいけないのだから。

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