接近 …なんだか少し前にも同じようなことを思った気はするのだが。 改めて言う。 この体勢は、 なんだ。 情けないことにつまづいて体のバランスを崩したと同時に、 腕を掴んだ雲雀恭弥に叩きつけられた。 一瞬救ってくれるのかと淡い期待をした、というのは忘れよう。 それはいい。 愛用のトンファーはこっそり遠く遠くに蹴り飛ばしておいたから、てっきり拳か蹴りが飛んでくるのかと思っていたのだが、 何やら様子がおかしい。 「…雲雀」 「………何」 「…近い」 そう、近い。 叩きつけられた自分の上に雲雀は思いっきり乗っかっているワケだが、 両手はその雲雀によって押さえつけられているし、 笑みを浮かべながら近付いてきた雲雀の顔は鼻先が触れ合うほど至近距離な感じで、 つまり、これは、 「…雲雀恭弥、もっかい言う。近い」 「……。」 無言かよ!なんか返せよ! 吐息が唇をくすぐる。わー顔整ってんなイケメン死ねよとか思っている場合ではない。 妙に緊張する。 多分相手がかなりの美形だからというわけではなく、目の前にいるのがあの大暴君・雲雀恭弥だからという理由の方がでかい。 いったいこれは何をされるのか。 冷や汗がこめかみを伝った。 別に、雲雀をどけようと思えばどけられる。が、これ以上相手に怪我を負わせたくはない。 並盛の秩序を保つ、つまりイコール雛乃の安全が守られるという意味では、この男は非常に有効かつ便利な人間であるのだから。 …理由が妙に理屈めいたことに気がつかないフリをしたのは、 多分、無意識だ。 「…本当、馬鹿だね」 ふ、と影が落ちた。 見上げれば、おかしそうに細められる目の前の黒い瞳。 「…ぐちゃぐちゃにしてあげるよ」 その言葉は、 なぜか自分の脳内で響いた。 |