フラグは立てられていた (『…雛香に毎日手合わせしてもらえ…』) あの言葉がまさか。 こうも現実になろうとは、 一体誰が予想できたであろうか。 「…はっ、と」 「!!」 突如ぶんっ、と頭上を掠めた鈍色の物体に、雛香は反射で避けた。 目標を外したトンファーが、深々と教室の壁に突き刺さる。 「…よー、ご挨拶だな、雲雀恭弥」 振られた2本目のトンファーを素手で受け止め、ぎりぎりと音がしそうなほど強く掴みながら、 雛香はさながら人形みたいな少年の顔に、自分の顔をずいっと近付けた。 「…す、すごい雛香君…素手で雲雀さんの武器つかんだよ…」 「化け物みたいな奴っすね」 「ははっ、さすがだな!雛香」 「雛香すごい!僕もやっていい?」 「てめーら傍観してないで何とかしろや、あと雛乃絶対やめとけ」 良い子は真似しないで下さい、 と言って雛香は掴んでいたトンファーを押し返した。廊下の窓から身体を突っ込んでいた風紀委員長様は、体勢を立て直すとトンファーを片手にまとめて雛香の腕を掴む。 「宮野雛香。今から屋上行くよ」 「…いや俺じゅぎょ「ほら早く立って」 だから人の話を少しは聞け! 当然周りは素知らぬ顔である。というか怯えている。次の授業で来たはずの先生も、怯えた顔をして事の成り行きを見守っている始末。 「沢田……!」 思わず傍らに懇願の目を向けるが、沢田は「ごめんなさい」と書いてある顔で目をそらしただけだった。 「山本…っ!」 「ぐー……」 早えよ!もう寝てんのかよ! 「…ご、くでらはまあいいや」 「おいてめぇどういうことだよ!」 立ち上がる獄寺を押さえつける沢田。 いやお前が助けてくれるとか欠片も思ってないし。 俺の味方はいないのか、と悲嘆に暮れながら廊下へ引っ張り出されたその時、 「雛香…!」 …ああ違う、いた。 俺にも味方してくれる、大天使が。 「雲雀さんと手合わせできるなんていいな…!」 …どうやらただの大バカだったようだ。 |