I bite you to death! | ナノ

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戦闘の結末


ー4人が呑気に会話を交わしている頃。


2人は、
接戦を繰り広げていた。


キン、と耳に付く金属音。
雛香は微かに顔をしかめて、ナイフの刃をずらす。
「…!」
途端、わずかに均衡を崩すトンファー。
ほんの少しの隙ではあったが、
戦闘ではそれが命取り。
雛香は躊躇無くナイフの柄を相手の胸元に叩き込もうとして、
左から迫る鈍色を視界の端に捉え、
一歩飛びすさる。

「…君、素早いね」
「それはどーも」

常任離れしたスピードで動きつつ、2人は息を切らす事もなく言葉を交わした。
空を切ったトンファーにナイフを叩き込み、
右足で隙の出来た左肩を蹴り上げる。
だが相手がわずかに身を引いたせいで、足は上腕部を掠ったまでだった。
「…っ」
ぐら、
それでも若干傾いた相手にチャンスとばかりにナイフを振り上げて、


「雛香ーっ!!!」


下から届いた聞き覚えのある声に、
反射で視線を下ろした。


貯水槽の下、
必死の形相で名前を呼んでいるのは間違いなく、


「ー雛乃」


愛しき双子の弟。


次の瞬間、
腹部に強烈な衝撃を喰らった。





「…雛香、ダメじゃん喧嘩したら!馬鹿!この短気!」
「た、短気…」
「何笑ってやがる獄寺後で殺す」
「ほらまたそんな物騒なこと言って!」
「った!腹殴んな雛乃!」
駆け付けた弟に介抱され腹を叩かれ、ぶすっとした顔の雛香。
正確に言うとその弟に意識をそらされたために、相手のトンファーを喰らう事になったのだが。
不機嫌な空気を放つ雛香に、ツナが遠慮がちに声を掛けた。
「で、でもすごいね、雛香君。なんで雲雀さんと同等に戦えるの?」
「…えー?」
雛香はしばし瞬きをすると、
「…護身術習ってたから?」
と、首をかたむけた。
「…ご、護身術?」
…とてもそんなレベルじゃないだろ(ねえよ)。
ツナと獄寺の心情がきっちり一致した瞬間だった。

「…宮野雛香」

それまで離れたところでトンファーの具合を確かめていた少年が、突然声を掛けてきた。
「…お前に名乗ったっけ」
「僕はこの学校の生徒の事なら何でも知っているよ」
「わあプライバシーの侵害」
雛香が呟くと雛乃がその腕をつねった。痛えよあほ。
「…君の事、気に入ったよ」
「わーいありがとう、出来るならすぐ忘れてもらえると有難い限り」
棒読みの雛香を気にした様子も(当然)無く、彼はツナの傍らに目を向ける。
「…赤ん坊、僕の相手をするつもりは?」
「ねぇな。雛香が良い相手みてえだし、毎日手合わせしてもらえよ」
「…ちょっと待てお前何勝手な事を、…って」
ここで初めてツナの横にいる人間…いや赤ん坊を見た雛香は数回瞬きをすると、
「…ダメだ雛乃…俺の目にはこの場にいてはいけないはずの赤子が見える…」
「大丈夫だよ雛香、僕の目にもそう見えるから」
「…お前らは何をしているんだ…」
こめかみを抑えて雛乃に縋り付く雛香と真剣な顔で呟く雛乃の2人の様子に、獄寺が呆れた目を向けた。
そんな茶番を歯牙にもかけず、

「…まあそうだね」

くすり、
小さく笑う声と共に、
「これから毎日相手をしてもらうよ、宮野雛香」
「…ちょっと待とうなお前、なに話進めてやがる」
こちらとしては冗談じゃない。
だが相手は昨晩同様、聞き入れる様子は微塵も無いという感じで、堂々と屋上を出て行こうとする。
あ、そういえば昨夜の口止めもしていない。

「おい待てよ、お前」

雛香が顔をしかめて声を掛けると、
相手は振り返らなかったが足を止めた。
「…名前は」



は?
驚いたようにまばたきを繰り返す少年の面を眺め、
そういう顔してる方が人間ぽいな、
と非常に的外れなことを思った。

「だから、名前」

俺の方だけ知られといて、俺はお前の名前を知らないなんて不公平だろ。
そう言うと、相手はおかしそうに口元を緩めた。
意外だ。
「…雲雀、雲雀恭弥」
「…へえ」
「以後よろしく、宮野雛香」
今度こそ本当に、
扉が閉まった。



「…雛香君すごいよ、俺尊敬する…」
「えっなんで」
突然尊敬の目で見られた雛香としては戸惑うばかりである。むしろ、さっき沢田に尊敬の念を抱いたばかりだというのに。

「…仕方ねーな。お前をファミリーの一員に認めてやってもいいぜ。ただし右腕は譲らねーからな!」

いや誰もそもそも入るとか言ってないし。

「雛香、大丈夫だ。何かあったら俺がいるから」

どうした山本まで何を血迷った。

「って訳で決定だな、宮野雛香。お前は今日からボンゴレファミリーの一員だ」

個々でとんでもない事を並べ立てる4人に、
雛香は思いっきり頬が引き攣るのを感じた。

「…おまえら」

どこか遠くで、
チャイムの鳴る音がした。

「……俺の意見を少しは聞け!!」


…あとついでに、常人にもわかるような説明をしような。
俺だったらいいものの、一般人だったら全くもって理解出来ないだろう。




ヒットマン。
ボンゴレ。
ファミリー。


…知っている。
よく、知っている。
なぜなら5年前、
俺は、




『……雛香…』
血。血。血。
『…これで、……』
喉元に込み上げる、吐き気。
『だいじょうぶ、だよ』
差し出された白い手は、


血と狂気に塗れていて。





……全てを「忘れた」君と、
全てを「覚えている」俺。
どちらが罪深いか、なんて、
そんな事。


分かり切っていたのに。



眼前で騒ぐ4人、
そしてその横で事情を飲み込めていないだろうに、
それはそれは楽しそうに笑っている雛乃を冷めた瞳で雛香は見つめた。
ひどく冷静な頭の片隅で、
呟く。


…さて。
アルコバレーノもいる中で、
どこまで隠し通せるか。


否、
隠し通す。




少年が密かな決意を固めたことなど、
誰も知る由は無かった。

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